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『アクセル・ワールド』TVアニメ放送直前SP企画 第2回

われらAW設定研究会(前編)

『アクセル・ワールド』がASCII.jp読者必見である理由

2012年04月05日 22時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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(C)川原 礫/アスキー・メディアワークス/AW Project

2046年までMS-DOSは生き残る!?

―― 前ページで、いくつか新しい単語が出てきましたね。《ブレイン・バースト》に《ソーシャルカメラ》。まずは『アクセル・ワールド』のキモと言ってよい《ブレイン・バースト》から説明しましょう! これは《ニューロリンカー》用のアプリケーションで、主人公のハルアキは、校内一の有名人にして美少女の黒雪姫に誘われ、この《ブレイン・バースト》をインストールしたことから物語が展開します。

野口 「その《ブレイン・バースト》のファイル名が原作記述によると『BB2039.exe』」

遠藤 「これいいよねー」

野口 「なぜかMS-DOSふう」

―― そして、“バースト・リンク”というコマンドを唱えることで、《ブレイン・バースト》をインストールした人間は《加速》できるという設定です。具体的には思考スピードの向上で、1秒を16分40秒として体感できます。事実上、時間の流れが極めて遅くなることと同義ですね。

野口 「この説明時に、たとえとしてコンピューターが登場するんだよね。コンピューターは作中にもあるとおり、『マザーボード上の振動子が時計のように刻む信号を、設定倍率にしたがって増幅(オーバークロック)しCPUを駆動して』いますけど、じつは人間もコンピューターと同じ仕組みで動いているんですよ、っていうのがこの『アクセル・ワールド』という作品を成立させるカギとなる設定なんですよ」

―― 『アクセル・ワールド』の設定では、人間の場合、振動子にあたるのは心臓です。心臓は、鼓動で思考の駆動速度を決定するベースクロック発生装置で、脈打つと量子パルス信号が中枢神経をさかのぼり、脳(意識)を駆動させます。

遠藤 「その量子パルス信号を、首に付けた《ニューロリンカー》で乗っ取り、1000倍にオーバークロックさせることで思考が加速すると。それを《ブレイン・バースト》と呼んでいるわけだ。そして冒頭でも話した通り、脳細胞には一切悪影響を与えない、と」

思考を1000倍に増幅する《ブレイン・バースト》は現実でも可能なのか? (C)川原 礫/アスキー・メディアワークス/AW Project

―― さて、量子コンピューターなんて目じゃないレベルの設定が出てきましたが、果たしてこれも現実世界で達成可能な技術でしょうか?

遠藤 「僕から言わせてもらうと、これはあり得るんじゃないかと思うわけ。1995年に月刊アスキーで脳型コンピューターの連載をやったんですよ。脳の計算理論を使ったシリコンコンピューターを作るプロジェクトの話。今で言うBMI(Brain Machine Interface)に近い。

 日本は、脳の計算理論に関しては世界的に見ても進んでいて、当時の通産省はかなりの巨額を投じて開発に取り組んでいたんですよ。その前の第5世代コンピュータ開発計画に比べると一般に知られていませんが。とにかくべらぼうなお金をかけて脳型コンピューターを作ろうとした。で、その中心人物である松本元氏に連載をお願いしたわけ。これが凄い内容だったんだけど……後編分にとっておこう(笑)」

野口 「僕らが小学生の頃、脳細胞の数は100億個だと教えられたのに、最近だと1000億個に増えてますよね」

遠藤 「脳のメカニズムって刻々と解明が進んでいて、1990年代半ばまでに分子レベルまでは、ほぼ解き明かされたと言われていたということだったんですね。詳しいことは後編で話すけど、脳細胞というのは入力が1000あって1を出力するような電子素子なのよ。

 作中で《ブレイン・バースト》を説明するときに、『心臓は、ただ血液を送り出すだけのポンプではない。その鼓動によって、思考の駆動速度を決定する基準クロック発生装置なのだ』というくだりがあるけど、誤解を恐れずに言えば、そもそも脳からして、2進法的なオン・オフ的な信号で動くコンピューターなんですよ。“人間はアナログな生き物”なんてのは昔の幻想です」

―こぼれ話―

遠藤 「読んでいるうちに『時をかける少女』を思い出しました。こういったジュブナイルものって、昔は学年誌に連載されていましたよね。『時かけ』なんかまさに中三コース連載ですから」

野口 「えっ。そうだったんですか」

遠藤 「こんな基礎知識まで知らないのか君たちは(笑)。もともと1960年代から1970年代にかけての学年誌に『時をかける少女』などのSF系のジュブナイルものが大量に載って、一大ブームとなったわけですよ。それがNHKの少年ドラマシリーズにつながるわけ。詳しくは、『NHK少年ドラマシリーズのすべて』(増山久明著、アスキー刊)を見てくださいね。

 なぜか日本はSF系の軽小説が馴染む環境があるんだよね。現実からちょっと離れたがる嗜好を民族性として持っているのかも」

野口 「ロボットとか初音ミクが受け入れられやすいのもその系譜ですか?」

遠藤 「日本は世界一、ロボットをすんなり受け入れた民族ですよ。これはソニーの関係者の方から伺った話なんだけど、ドイツにあるソニーの製品展示施設でAIBOをお披露目したと。

 初代のAIBOってお尻にバッテリーを搭載しているんだけど、発表中にバッテリーが切れたので、その場で普通に交換したらしいんです。そうしたら見学しているドイツの人々が、お尻からバッテリーを出し入れする光景を見て、大変な騒ぎになっちゃったというんですよ」

野口 「そんな(笑)。どこに騒ぐ要素があるんです?」

遠藤 「どうも犬型ペットロボットの時点で日本人的な捉え方ができなかったところに、その光景を見て、ついに閾値を超えたらしい(笑)。正直、たいていの日本人は平気だと思うけど、そのくらい海外では生き物とロボットの間に深い溝があるようだね」

後編は――ザリガニの脳を数珠つなぎ? AW世界はディストピア?

 明日は脳型コンピューター開発でわかった脳の仕組みや、意識を加速させるための方法、そこから導き出される《ブレイン・バースト》の現実性、そしてインプラント型機器の未来など、引き続き『アクセル・ワールド』の世界設定について(脱線しつつ)考察する。後編はこちらから!

明日の後編では《ブレイン・バースト》と《ソーシャルカメラ》の謎に迫る……はず

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