
「文化系のためのヒップホップ入門」の著者インタビューの後編(前編)。前回のテーマをざっとまとめると、インターネット以前にインターネット的な場を持っていたヒップホップと、インターネット後に生まれてヒップホップ的な場を形成していった初音ミク、という対比だった。
ではインターネットを得たことで独自の文化として拡張しつつあるヒップホップの今はどうなのか、というのが後編のテーマ。その展開を追うことでインターネットと音楽の関係がどうなるかを占う参考になるのではないか。
ではインタビューの続きをどうぞ。
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文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)長谷川町蔵、大和田俊之(著)アルテスパブリッシング
アルバムをiTunesで配信して、いきなりフリーダウンロード
―― 日本のネット界隈の音楽は、著作権も何もないカオスのような状態から始まって、メジャーの世界と折り合いを付けながらボーカロイド周辺が残った感じなんですが、ヒップホップはどうなんでしょう?
長谷川 今はヒップホップも完全にネット音楽になっていて。とりあえずアルバム一枚分、ミックステープ※をネットにアップしちゃうわけですよ。それで勝手にダウンロードしてくれと。
※ ミックステープ : DJのリミックス音源を入れて路上で売られていたカセットテープが名前の由来。今はインターネットが路上に当たるのだろう。
―― ミックステープは知名度のあるDJがMIXすることで、結果的にインキュベータ的に機能しているものと思っていたんですけど。
大和田 今はもうラッパー自身が上げているんですね。そこからメジャーの契約を得たりして、不遇な才能が発表の場を持てるようになった。ちょっと前までは売れてるラッパーの太鼓持ちから入って、アルバムの一曲でちょっとだけラップして。それで注目されてレコード会社と契約して、みたいな話だったんですけどね。
―― まるで芸能界の徒弟制度みたいですね。
大和田 そう、日本のお笑いと同じです。
長谷川 だけど今は家のパソコンで適当にラップして、それがウケたら翌年メジャーデビューみたいな新しいルートができた。それが劇的な変化ですね。
大和田 例えばリル・Bという人は、アルバムをiTunesで配信して、いきなりフリーダウンロード。
長谷川 カネのない人はこっちで落としてくれって、皆そっちに行っちゃうんじゃないか。何考えているんだって。
大和田 しかも、ものすごくクオリティ高いんですよ。ミックステープの。
―― 日本とはえらい違いですが、そういうミックステープのリリース情報は誰が流しているんですか?
大和田 ポータルサイトがいくつかあるんですよ※。
※ そのうち最もメジャーなのが「datpiff」。
長谷川 もう量が多すぎて聴き切れないですからね、メジャーどころの出すミックステープだけでも。YouTubeにはミックステープのリードトラックのPVというものがありますから。
―― んんっ? なんですかそれは。
長谷川 つまり「プロモのプロモ」ですよ。もうわけが分らない。ミックステープが週刊誌で、アルバムが単行本みたいな感じです。ただ、週刊誌が全部フリーペーパーというのが今の状況で、単行本を出すに至らない人も大勢いるわけです。

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