ちゃんと批評されるとお金も動く
―― それってビジネス的にはどうなんですか? フリーダウンロードが主体になると儲からないじゃないですか。
大和田 この本でも結論が出なかったんですが、結局、カネになってないんですよね。それはネットの特性で。作品を売って生計を立てるという、アーティストの仕事のあり方が崩れている。いまネットレーベルってすごいできてるじゃないですか。でも日本のネットレーベルってほとんどお金を請求してないんですよね。
―― 日本だとマルチネ※とか盛り上がってますけどね。
※ 2005年から活動している日本のネットレーベル。基本的にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示-非営利)で配信。
大和田 そう。だからあの辺とも通じるんだろうなあと。結局、収入源をいくつか確保しようという話になってくると思うんですよ。あるいは収入の方法を工夫するとか。これは日本のラッパーの話ですが、年会費をとってCDを刷ったり、アウトテイクや会員だけのライブをやったりする人もいるようです。
長谷川 ラフ・トレードシングルズクラブ※みたいなものですよね。あとはアパレルが乗ってあげればいいんですよ。アメリカのラッパーだってアパレルで食ってるんですから。
※ イギリスの老舗インディーズレーベルが90年代前半に行なっていたサービス。会員になると毎月シングル盤が送られてきた。
大和田 でも、日本の場合は規模がアメリカの十分の一くらいになっちゃうんですよね。
長谷川 十分の一どころじゃないですよ。まだまだです。それで大事なのが、アメリカにはミックステープを拾って論評する、ちゃんとしたレビューサイトがいくつもあるということです。流動的に動いているところだけじゃなくて、一歩引いて見る人、シーンを総括して整理するサイトがないとダメだと思うんですよね。そうしないとネットの海の中に飲まれて消えて行ってしまう。でも、ちゃんと批評されるとお金も動くんですよ。
―― 美術なんかと同じで、批評次第で価値も付くということですね。
長谷川 だから音楽産業がダメになってもうやることない、じゃあなくて、やりようはあると思うんです。いいレビューサイトがあることで、何とか商売として成り立つ人が出てきている。レビューサイトの人も、何で稼いでいるのか分からないですけど、無数にあるフリーダウンロードのサイトを巡回して頑張っている。それで批評基準というものが成り立っているわけです。
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