不景気とインターネットが結びついて、日本の各地にサウスブロンクスができた
―― ヒップホップと言えばレペゼン※文化ですけど、ネット時代になってもレペゼンはあるんですか?
長谷川 あります。それは強固にありますね。
大和田 ヒップホップという音楽は黎明期から地域性と密接に結びついていたんですが、ニューヨークの中でも、ブロンクスとブルックリンとハーレムみたいな細分化が最初からあったんですよね。
※ representの略。「〜代表」「〜から来た」という意味。「レペゼン川越」のように使う。日本語における「手前、生国と発しましては〜」的なもの。
長谷川 レコード会社主体の時代は、西が流行った、南が流行ったと、その時々で関心は動いていきましたけど、そこから外れたエリアはそもそも気にも留められない。今はそういうエリアの人が、渾身のミックステープをアップロードするわけですよ。それはネットという、みんなと対等に戦える所があるから可能になったんですね。
―― ネットを介して地域性が際立ってきたわけですね、むしろ。
長谷川 2Pacなんかが死んで以降、ずっと西海岸は盛り下がっていたんですけど、急に出口を得た感じで。ニューウエストと呼ばれて、結構盛り上がっている。最近のオッド・フューチャー※はL.A.なんですね。ウィズ・カリファ※なんてピッツバーグですよ。黒人ラジオ局が一局もないという土地柄なのに。
※ Odd Future Wolf Gang Kill Them All(OFWGKTA)。ティーンエイジャーによるクリエイター集団。メンバーのシド・ザ・キッドとマット・マーシャンはthe internetという名前のデュオとしても活動している。
※ ウィズ・カリファはつい先日もミックステープを発表したばかり。
―― でも、そういうレペゼン文化って日本には……。
長谷川 そこでヤンキーなんですよ。
―― あっ、なるほど!
長谷川 地元志向。ビジュアル系は北関東のヤンキーと結びついたから爆発したんで。
大和田 その傾向は日本語ラップでも出てきてますね。僕は90年代の日本語ラップってほとんど接してないんですけど、2000年代以降のヒップホップは面白く聴いてます。90年代の日本のラップはレペゼンなかったんですよね、基本的に。
―― それはメジャー志向だったから?
長谷川 みんな渋谷に行きたがるみたいな。
大和田 でも今は東京にも三茶のクルーがいて。
―― 渋谷まで歩いて行ける距離なのに。
長谷川 わざわざ「三茶」って言うわけですよ。
―― なるほどなぁ。
大和田 僕は大学に勤めているんですけど、地方から学生が集まらない。今は早慶なんかよりも地元の国立大学に行く。どんどん地元志向になっていると思いますね。もちろん文化の均一化もあるんです。ちょっと郊外に行くと、どこもイオンモールじゃないですか。それってある意味、アメリカに近づいてきているという事なんですね。ここ20年の不景気とインターネットが結びついて、言い方には問題はあるかもしれませんが、日本の各地にサウスブロンクスができたと思うんです。山梨、宮城、京都なんかにもクルーがいて、不良文化と結びつくかたちでシーンができているんですよね。全然カネと関係なく。
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