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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ 第77回

「テレビ崩壊」はウソだと思う

2011年12月24日 09時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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テレビとタブレット/スマホは
どちらか、ではない

 このコラムで、かつて「ネイティブマップ」というものを作ったことがある。そこでは、1950年代中盤~1970年代中盤生まれまでの人たちを「テレビネイティブ」とした。この世代では、テレビが最大のコンテンツのテリバリー手段で、家族や学校のクラスの仲間や日本中をシンクロさせる神経系統として作用した。それがまるで様変わりしているのは事実だが、テレビに未来がないのかというと、そんなことはないと思う。

 “家の中のスクリーン”という意味でのテレビは、今後も強力なデバイスの1つであり続けるだろう。手を使わずに没頭できるという点においては、映画『マトリックス』の液体漬けで脳内活動だけを続ける未来の人間の姿に近いのは、カウチポテトなのだ。そのテレビが、つい最近までは1インチ1万円と言われていたものが、いまや10インチ1万円に近づいている(液晶テレビ以降は、テレビもムーアの法則の恩恵に預かっていることに気付いてほしい)。

 コンテンツ提供媒体としてのテレビも、見たいものが映し出されるのであれば、メディアとして過去の遺物になることはない。そのための新しい秩序が作られようとしているのがいまで、ちょっとしたイス取りゲームを新旧のメディアがやっているような感じなのだ。そこにおいては、人々の人気の集積所として機能してきたテレビ局のやれることも多い。そうした変化の途中であることを実感させるニュースが目立っているのも事実ではないか。

 海外メディアでは、イノベーションのトレンドはスマートフォンからテレビに移ってきているように思える。ザッと拾っても、次のようなトピックがある。


・アップルが「テレビ」を発売
 同社の最新のA6プロサッセを搭載すると言われる。iPhoneやiPadのような軽やかに動くテレビは、テレビ番組表を見るのにもモッタリした家電メーカーのテレビを、一気に過去のものに追いやる可能性がある。

・グーグルの「GoogleTV」もやる気
 エリック・シュミット会長は、「来夏には、大半のテレビに GoogleTV が組み込まれる」と発言している。テレビ局と格闘中ではあるが。

・コンテンツ配信も多様化がすすむ
 アマゾン、アップル、グーグルがクラウド型のコンテンツサービスを開始。HuluやNetflixなど、PCへの配信も活発だ。国内でも民放が集まって見逃しチャンネルを開始する。

・HTML5でブラウザがテレビになる
 今後のテレビに求められる機能がブラウザに吸収されると言われる。国やメーカー間の力関係と動向が注目される。

・海外ではテレビ映像系アプリがブレイク
 ディズニーの「Second Screen」のような新しい鑑賞スタイルを提供するものから、米ヤフーの「IntoNow」まで、さまざまなアプローチがある。


 この中で、いちばん注目すべきなのは、テレビとスマートフォン、タブレットのアプリとの関係だろう。今週、私は、Androidマーケットから『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』と『彼とわたしの漂流日記』という2本の映画をレンタルして、7インチのタブレットで見た。382グラムのGalaxyTabは、布団の中で見るのにも悪くない。それをやっていて、「PS Vita」が欲しくなっている自分にも気付いた。

 一方、先月米国で発売されたアマゾンの「Kindle Fire」をいじっていると、1ドル99セントのテレビ番組が、同社のプライム会員なら無料で見られるようになっていたりする。この端末に広告が出るようになるのは時間の問題だし、本や音楽や映像などのコンテンツ以外の商品を買えるようにもなるだろう(勝間和代さんが、アマゾンでほうれん草を買っているというお話がありましたが)。

 個人的には、テレビとしてのタブレットもさることながら、テレビと連携するスマートフォンやタブレットやそのアプリのほうにも興味がある。これは、「携帯を使いながらテレビは《ながら視聴》している」といった、5年くらい前からあるような話ではない。どちらかというと、任天堂のタブレット型コントローラを持つ「Wii U」といったほうが合っている。

 テレビというものが、先に述べたような新しい秩序を求める中で、うんうんと唸ってポコッとタブレットという卵を生み出したのだ。要するに、リラックスして見たいときは大画面のテレビで見る(鑑賞系)のに対して、コンテンツ選びやソーシャル的なことやコマースなんか(情報系)は、タブレットを中心に行う。より正確には、テレビの画面ともう1つの画面(セカンドスクリーン)を自由にやりとりできるようになる。

 いまのところ、テレビ番組にチェックインして話題を共有するようなアプリが多いが、圧巻は、米ヤフーが買収したIntoNowである(上の動画参照)。再生中のテレビに画面をかざすと、いま放送中のどのチャンネルか、あるいは何年前の何月何日に放送されたどの番組のどのシーンかを教えてくれる。この種の取り組みは国内でもあって、たとえば東芝は、美人の出てくるシーンの日時分情報をタグにしてソーシャルに流す技術なんかを用意している。

 20世紀のお茶の間での、最大のエンターテインメントとしてのテレビと、世界を目下動かしはじめているソーシャルメディアとの組み合わせは、一体、人々にどう作用するようになるのか? 社会、文化、思想、経済、世論形成など、あらゆるカテゴリにおよぶと考えられる影響力の大きさは、計り知れないのではないか。

 映し出される映像は、強力な影響力を持ってきたニュースや情報番組なのか、スポーツや音楽や風景などのライブ映像なのか、ニコ生やYouTubeの世界なのか、いま好調のドラマなのか、何か新しいゲームのようなグラフィックスなのか。テレビの本質かもしれないのだが、狂言回しとしての登場人物の関わり方も変わってくるかもしれない。しかし、注目すべきはやはりネットで視聴者が繋がったことだ。

 いまテレビが「旬」である。

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