ほぼ30年経ってようやく完成したニューウェイヴ
―― リマスターされた「KING ソングス of ニューウェイヴ」も今聴くと面白いですね。
サエキ マスタリングが物凄くいいんですよ。機材の関係で2007~2008年以降のマスタリングはすごく良くなるんですけど、この時期の音をマスタリングし直すと差が大きく出ているんです。
―― ニューウェイヴの時代は音にこだわった作り方をしていなかったですよね。
サエキ こだわれない事情というのがあるんですよね。カッティングなんかは職人仕事になっていて、ぜんぜん音がいじれるという状況じゃなかった。ハルメンズなんかも泣けてくる感じだったんです。今回は「ここが足りない」とか言いながらできるわけだし、実際モニターから聴こえてくる音が当時のものとは違う。当時はどうしてできなかったのかなと思うと、録音してからレコードになるまでの工程にいろいろとあって、マスターテープに入っている音がプレスには反映されないんですね。その怨念が30年後にこうして。
―― 80年代はスタジオの問題もあって、音の作り方そのものが歌謡曲っぽかったじゃないですか。それが80年代の後半になって、やっとロックっぽくなってくるんだけど、ニューウェイヴの時期はまだ歌謡曲的でしたね。
サエキ あ、それもある。ゴダイゴとかCharなんかが出てきて、バンドの音は洗練されてきたんですよ。でもニューウェイヴになると打ち込みが入ってくるから、全然概念が違う。こうなればいいなというイメージははっきりあったんですが、それがメジャーの録音の場合はうまく生かされないという不思議な状況にあって。ハルメンズも今回ボーナストラックに入れたんですけど、デモの方が確実に自分たちの気持ちに近いんです。
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テクノ歌謡 アルティメット・コレクション1 |
―― それで日本のニューウェイヴは歌謡曲に着地するわけですけど。
サエキ 結局、そうなるのが手っ取り早いと。ここは日本だ! 歌謡曲になれ!みたいな感じはあったかも知れない。日本では徒花的にテクノ歌謡が文化として花開いたんですよ。
―― それでニューウェイヴって急に終わってしまうんですよね。
サエキ そうなんですよ。バンドがやりたいことと、メジャーシーンの中で売り上げることのバランスがまったく取れないままに。それでYMOも最後はテクノ歌謡的な「浮気なぼくら」を作るわけですしね。
―― その辺は当時ももどかしさを感じられてました?
サエキ まあ、こういう風に終わっていくのか全ては、みたいな感じ。方丈記みたいな気持ちになりましたね。時代の力で流されていくという。特にポータブル・ロックなんかは音楽性が花開いているにもかかわらず、デビューした頃にはまったく違う流行になっていた。だからその怨念はすごいですよ。だから先ほどミライさんが、当時できなかったようなことを補強するような感じというのは、まったくもって的を射たことです。
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