前編に続き、「初音ミク sings ハルメンズ」に関わった7人のボカロPとサエキけんぞう氏の対談をお届けしたい。
アルバムの完成度を裏付ける証拠としてよく聞かれるのは、「ボカロと歌詞の雰囲気が合っている」という声。だが、ハルメンズの楽曲が世に生まれ出たのは1980年代のこと。
30年前の楽曲群と、21世紀に生まれたボーカロイドの親和性が高いのはなぜなのか。そして「初音ミク」というキャラクターがこのアルバムに果たした役割は何なのか?
それでは、3時間(しかも深夜2時!)に及ぶ対談の後半部分をどうぞ。
「初音ミク」は21世紀の「戸川純」?
―― うどんゲルゲさんが使っている「Little-Girl_β」というボーカロイドは何ですか? やけに生々しい声なんですが。
うどんゲルゲ クリプトンが開発している「Project if」という新しいボーカロイドのベータ版です。ずいぶん長く開発してらっしゃるようで、去年の今頃「崖の上のポニョ」のカバーがYouTubeに出ましたけど、あれです。
―― 「sings 初音ミク」というタイトルだけど、それも含めて初音ミクだけじゃないですよね?
うどんゲルゲ ええ、その辺は割り切って。ボカロを代表する名前として初音ミクは出しておこうと。一般的にボーカロイドといえば初音ミクというイメージなので。
―― そういうイメージで初音ミクを聴く人たちは、ハルメンズを知らない世代や、ニューウェイブを通過してこなかった人たちがほとんどですけど、評判いいんですよ。
サエキ 嬉しいですねえ。実は前にも似たようなことは経験していて、戸川純さんが「玉姫様」というアルバムでブレイクした後に、「戸川純」って帯にでっかく書かれたレコードを、レコード会社から出されているんですよ。
Image from Amazon.co.jp |
ハルメンズ/デラックス |
―― 「ハルメンズ・デラックス」ですよね? ゲルゲさんがハルメンズを知ったきっかけになったという。
うどんゲルゲ 僕は「戸川純って書いてあるから買ったけど、なんだこれ?」ってところからハルメンズを知ったんですよ。
サエキ 申し訳ないです。そうなんですよ……。で、その時にオリコンに入っちゃっているんです。まったく知らなかった人たちが、大挙して聴いてくれたんですけど。「昆虫軍」を「昆虫くん」って言っちゃうような人たちが。
―― こ、昆虫くん!
サエキ それでも聴いてくれる人が増えるのは、嬉しいものなんです。
―― 初音ミクとボーカロイドPの関係も、最近はそんな感じになってきてるんですよ。初音ミクの曲は知っていても、作ったPの名前は知らないという。
サエキ あーっ、なーるほどねえ。
―― 歴史は繰り返すというか。
サエキ ミクがきっかけでPのキャラクターに興味をもつ、ということも当然あるわけですよね? プロデューサーに独壇場が与えられるのは、良い状況だと思いますよ。それに今回の場合、オリジナルが同時発売というのも前代未聞で。この1枚だけ出るのと、他の4枚が一緒に出るのとでは、スケール感がぜんぜん違うと思うんですね。
―― 「21世紀さん sings ハルメンズ」と比較してみてどうなんでしょう? あっちにもカバーは入ってるわけですが。
サエキ 新曲も半分入っているんですよ。このプロジェクトは、新曲を作って若いバンドとやることが、メインだったんですね。それとは逆の、対を成す異次元の存在として初音ミクがある。生身の人間が歌う「21世紀さん」と、別の生命として組成する「初音さん」が歌う、そんな次元が交差している感じがしますね。
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