アドビ システムズは、「Adobe Creative Suite CS5.5」を5月20日に発売する(関連記事)。CS5.5は製品名こそ“つなぎ”のようだが、新機能に目を向ければHTML5やモバイルデバイスといった最新技術への対応を進めた意欲的な製品だ。CS5.5投入の狙いと今後のWeb製品の戦略について、アドビ システムズ クリエイティブソリューション 第2部部長の西山正一氏、デベロッパーマーケティングスペシャリストの轟 啓介氏に話を聞いた。
一気に進んだモバイル対応、使い分けはユーザーが判断
――CS5.5の発表から1か月が経ちました。この間、ユーザーからはどのような反応がありましたか?
西山 基本的にはポジティブな評価をいただいています。今回の中間バージョンをリリースする最大の理由は、市場の変化へ迅速に対応するためです。ここ1、2年ぐらいで、市場の変化がものすごく早くなり、これまでのようにすべての製品を1年以上かけてリリースしていく方法ではとても対応できなくなった。
そこで、キーとなるアプリケーションについてはすばやくアップデートしていく、という方針をとることにしました。もちろん「リリースが早すぎるのではないか」との意見も一部いただいていますが、特に変化の早いWeb業界の方からは納得いただいていると思います。
――CS5.5では「モバイル対応」が目立ちましたが、意外だったのがDreamweaverとPhoneGapの連携です(関連記事)。Webデザイナーやコーダーが使うDreamweaverに、なぜモバイルアプリの開発機能を付けたのですか?
西山 たとえば、新商品のWebキャンペーンを展開する場合、PC向けのWebサイトからスマートフォンサイト、さらにはモバイルアプリまで作りたい、といった要望がクライアントから上がるのは決して珍しくないと思います。
これまではそういった案件がWeb制作者に来ても、外注に出すか、断るしかありませんでした。もちろん本格的なアプリを作るにはトレーニングが必要ですが、ハードルを極力下げれば、ビジネスの機会を広げる可能性は高まるでしょう。これはDreamweaverに限らず、Flash ProfessionalやFlash Builderでも同じ考え方ですね。
――Web標準への対応状況などから、Dreamweaverにはどちらかというと「後追い」のイメージを持っていたのですが、新機能は「先取り」しているように感じました。
西山 我々としては、あまり先取りしている感覚はありません。これまでも同様に、世の中のトレンドの変化には反応してきました。たとえばDreamweaverの場合、JavaScriptによるUI制作をサポートするために、数年前から「Spry」というJavaScriptフレームワークを提供しています。結果的にjQueryに人気が集まったことで機能としては当たらなかったわけですが(笑)、トレンドは外していないと思いますよ。
HTML5/CSS3によるモバイルアプリの開発は、いま、まさに期待が高まっている分野ですが、制作者のニーズに応えるオーサリングツールがありません。jQuery MobileやPhoneGapとの連携機能は、ちょうどいいタイミングで提供できたなと思いますし、だからこそ、みなさんから大きな期待をいただいているのだろうと思います。
――CS5.5ではFlash製品(Flash Professional/Flash Builder)も大きく変わりました。ユーザーからの反応がよかった機能は?
轟 Flash Professional/Flash Builderについても、やはり目玉はモバイル対応ですね。Flash Professionalでは、iOSアプリの開発機能を強化し、「AIR for iOS」に正式に対応しました。CS5にはAIR 2.0をベースにした「Packager for iPhone」という機能がありましたが、昨年のアップルの発表を受けて開発が一時止まっていたので、Android版に比べて使用可能なAPI(カメラ機能など)の種類などで劣っていました。AIR for iOSはAndroid版と同じAIR 2.6をベースにしているので、iOSとAndroidのアプリを同時に開発できるようになり、Flasher(Flash開発者)の方からはかなり喜ばれています。
また、これまでモバイルとは関わりが薄かったFlash Builderも、今回のバージョンから初めてiOS/Android、Blackberry Tablet OSアプリの開発に対応しました。こちらは、ビジネスアプリケーションを手掛ける企業から注目いただいています。
――それぞれのツールがモバイル対応を進めたことで、Flash ProfessionalでもFlash Builderでも、さらにはDreamweaverでもモバイルアプリが作れるようになりました。どう棲み分けしますか?
西山 「アドビが決めるのではなく、ユーザーに選んでもらう」というのが基本的な考え方です。たとえば、PhotoshopとIllustratorの場合でも、それぞれに似たような機能があって、結果的に同じようなものが作れる。もちろん、ベクター画像とビットマップの違いもありますが、最終的にはユーザーが適材適所で使い分けていますよね。
Flash Builderでもモバイルアプリが開発できるようになりましたが、すべてコードで書きましょうとなると、Flash Professionalのユーザーにはとっつきにくい。Flash Professionalのユーザーはタイムラインを使ったオーサリングベースで、DreamweaverはHTMLやJavaScriptのコーディングで、といった具合に、それぞれの得意分野から領域を広げてもらうのがよいと思います。
轟 Flashに関していえば、Flash Professionalはユーザーインターフェイスの自由度が高いので、やはりゲーム開発に向いています。一方、Flash Builderで扱うFlexは、もともとコンポーネントを組み合わせてWebアプリケーションを構築するフレームワークですから、ビジネス用途のアプリ、特にデータ処理を中心としたアプリの開発に強みがあります。
全体的にモバイルの対応が進んでいるのはFlexですね。たとえば、Flash Professionalでは画面遷移の動きだけとっても1から自分で作る必要がありますが、Flexでは画面遷移の動きを含むモバイルアプリ用のUIが定義されているので、よりすばやく開発できます。
モバイルアプリでは、どのアプリも似たような操作感を提供できないと、ユーザーに敬遠される傾向にあります。もちろん、オリジナリティも必要ですが、アップルがガイドラインを出しているように、UIに関してはお作法が必要です。お作法に則ったUIを提供できるのが、Flexを使うメリットになるでしょう。
CS5.5の新機能に触れる!
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