各社の制作進行にこそプロデューサー教育を
―― そう捉えていくと、これまで曖昧に語られることの多かったプロデューサーの役割が明確になってきますね。マーケティング戦略としてコミュニケーションを設計していく役割が与えられているとすれば、メディアの転換を見通した上で、作品だけでなく施策や周辺商品まで調達・計画する能力が問われることになりそうです。
数土 「それはとても大事だと思いますね」
―― 先ほど(前編)、経産省のクリエイター育成の取り組みが例に挙がりましたが、プロデューサー育成もやはり同時期に始まっています。それについてはどのような見解をお持ちですか?
数土 「官主導のプロデューサー教育がうまくいかなかったことは、残念ながら事実だと思います。これは色々な方が指摘していますが、“まず現場の体験ありき”で組み立てるべきでした。
いわゆる座学で身に付けるファイナンスや法律、あるいは語学の知識はもちろん役に立つものだとは思います。ただ、それをまったくの未経験者に詰め込んでも頭でっかちになってしまうし、現場に出たときに、周りから叩かれてしまいますよね。
一方、いま現場で実績を上げているプロデューサーは――思いつく限りでもプロダクションI.Gの石川光久社長、ボンズの南雅彦社長――制作進行からプロデューサー、そして経営者へと成長された方々です。
そう考えると、たとえば“制作進行を3年間経験した人”を対象にプロデューサー教育を施す、という選択肢はあり得ます。現場のことを知っているし、何が足らないのかも身をもってわかっているわけです。非常に効果が上がると思います。
しかし、その教育費をどう工面するか? キャリア形成として現場を離れ、教育を受ける期間のブランクをどうフォローするか? そもそも日々スケジュールに追われる制作進行の方々に“教育を受けよう”というモチベーションをいかに持ってもらうか? 難しい面もたくさんあります。
ですが、それでも現場を経験してから教育を受けることは大事だと思うんです。これってMBAと通じる考え方なんですよね。いま一度改めてプロデューサー育成を捉え直す必要があるのでは」
―― そして、国家事業においても数字で計れる成果が求められます。確かに新人にプロデューサー教育を施しても、いまお話し頂いたように、すぐには成果が現われない、従って次の予算が付きにくい。育成の効果を上げるためだけでなく、事業を存続させるためにも、ある意味門戸を狭くして確実に成果を上げる必要があるのかもしれません。
数土 「ただ、やはり優秀な人は忙しいので、時間が十分にとれないという共通の悩みがあるようです。国が関与する場面があるとすれば、その部分のケアも挙げられると思いますね」
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