「GOSICK―ゴシック―」は、桜庭一樹氏による同名の小説を原作としたアニメだ。
今年1月から放映がはじまり、他のアニメ同様、物語半ばで東日本大地震を通過した。作品の舞台は、第一次世界大戦と第二次世界大戦、二つの戦争のはざまだ。戦争という大きな嵐を前に、やがて翻弄されていく主人公たち。そこで描かれていたメインテーマは、“人と人との絆”だった。
図書館で膨大な本の世界にひたり、「退屈だ」が口ぐせになっているヒロイン。彼女は主人公と出会い、大戦に巻き込まれ、その中で少しずつ人間として変化していく。震災というとてつもなく大きな“嵐”を目の当たりにした監督が、彼女に重ねたものとは何だったのか。難波比登志監督へのインタビューと本作品を通して、日本の“現在”が見えてくる。
あらすじ
1924年、長い歴史を誇る西欧の小国・ソヴュール王国。東洋の島国からの留学生・一弥は、貴族の子弟たちが通う名門「聖マルグリット学園」にやってきた。一弥はある日、学園の図書館塔の一番上にある植物園で、人形のように美しい一人の少女と出会う――
「GOSICK―ゴシック―」 公式Webサイト
難波日登志監督について
1960年生まれ。新潟県出身。演出家。テレコム・アニメーションフィルム、東京ムービー、グループ・タックを経てフリーに。「ダッシュ!四駆郎」で初監督。主な監督作品に、「HEROMAN」「ぼのぼの」「YAT安心!宇宙旅行」「グラップラー刃牙」などがある。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
個人の力ではどうしようもないもの
―― 「GOSICK―ゴシック―」(以下「GOSICK」)は、推理小説が原作ですが、難波監督ご自身は、どういった客層、視聴者層に向けようと思っていましたか。
難波 お客さんの層というのは、あえて考えずに作るようにしていました。この作品には、特に性別などは関係なく万人に向けられるテーマ性を感じたので、あえてターゲット層は決めないで作ろうと思いました。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
―― 万人に受け入れられるテーマ性というのは何だと思いましたか。
難波 “人同士の絆”ですね。「GOSICK」は、ミステリーの謎解きとしてはシンプルなんです。でも、事件や謎の核心には、必ず人の強い想いが埋まっている。だからアニメーションでも、謎を通して描かれる人の感情のほうにポイントを置きたいと思いました。学園に幽閉されながら難事件を解決していくヴィクトリカと、東洋からの留学生である一弥。このふたりを軸にして、登場人物について様々な絆を描いていければと思いました。
―― テーマは普遍的ですが、舞台設定は独特ですね。
難波 舞台は1924年のヨーロッパで、第一次大戦と第二次大戦の間にあたります。日本でいうと、時代的には大正時代、関東大震災の翌年ですね。そうした設定にした理由を、原作者の桜庭一樹先生からうかがったんですが、第1次大戦の後に物語を始めたのは、やがて来るであろう第二次大戦が、大きな“嵐”となって、ヴィクトリカや一弥、様々な人々を巻き込んでいく、そういう話にしたかったということでした。
―― 戦争を “嵐”と表現しているんですね。
難波 はい。自分も、“嵐”というのは、個人の力ではどうにもならない、変えられないもので、そんな状況の中で、人がどのように行動していくのかを描きたいと思ったんです。ヴィクトリカと一弥も、嵐のただ中に入っていくことになる。“嵐”によって、それまでに彼らが築いた絆がどう活きるのか。その身は離れ離れになるかもしれないけど、心はずっと離れないというのが、この作品の軸としてありますね。
……あとは、今の時代というのは、人間の普遍的なところがすごく大事になってきていると、改めて考えさせられることもありました。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
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