出版社とともに歩んできた10年
── GALAPAGOSは、スタート時で2万冊という電子書籍ストアも魅力ですよね。すでに多くの出版社が本を提供している。
遠藤 シャープさんは、10年以上前から電子書籍フォーマットの「XMDF」を推進して、出版社と一緒に電子書籍を作ってきましたよね。2001年には「ザウルス文庫」を立ち上げて、相当な出版社から書籍の配信を獲得している。
鎌田 そうした長年の積み重ねが、出版社との信頼関係を生んでるところもあります。出版社は、普通の人が考える以上に本作りにこだわっているのだと痛感しました。
── それはフォントやルビの位置、禁則事項などへのこだわりということですか?
鎌田 そうですね。例えば「辻」っていう漢字の「しんにょう」の部分は2点だったりするんですが、海外の端末だと割り切って1点で指定してしまうところもあります。当時、私は正にその最前線にいたのですが、XMDFではそれをおざなりにせず、開発と編集の方との二人三脚で細かい対応などをやってきました。
これまでどのような対応をしたかをまとめたドキュメントを積みあげたら、それこそ山のような束になってしまうでしょう。出版社の思いに一番近い書籍を出そうという10年間の努力がいまのXMDFを作っています。
出版はその国の文化なので、液晶ディスプレーが紙を名乗る以上はその「再現性」についてこだわらなければいけない。例えば、パソコンのOSが「この文字は不要」って切り捨ててしまったら、数十年後にはオリジナルではない、全く別モノの本を気付かずに読んでいるかもしれない。そうした出版社のこだわりは、日本メーカーじゃないと支えられないのではないかと思います。
── 確かに海外企業が入りにくい、理解すらしてもらえない領域かもしれません。
鎌田 だから電子出版は、出版社と配信会社で取り分だけ決めてゴーサインを出すような、簡単に割り切れるビジネスじゃないと思うんですよ。しかもベストセラーを出しているような有名な出版社でも、その規模は決して大きくない場合もあります。だから、そうした会社に一社ずつ訪問して、お話しさせていただいたのです。
遠藤 外側から見ると「何であの会社が電子書籍やらないの?」って言われることもありますが、蒸気機関車を作っていた会社が電車に移る時期と同じで、この過渡期で移行に失敗すると何も残らない。問題はやはり本の中身であって、次が電子化できるかなんです。
鎌田 電子書籍が出てきたらといって、誰でも作家になれる訳じゃなくて、やっぱり編集っていう作業はとても大切です。
遠藤 著者の頭の中にあるストーリーがそのまま出たほうがいいというのはもちろんありますが、本を出すというイベントが生じたことで何人もの人が動き、本来なかった議論が生まれて、それが価値を生むことも少なくないんですよ。
出版社に匹敵する文字コンテンツを作る仕組みがオンライン上に生まれたときが本当の電子化した本の時代だと思うのです。その意味でシャープさんのやられてきた取り組みこそ、そのあるべきステップとして重要だった。
藤田 とはいえ私は紙と電子書籍があったら、電子書籍を選びたい。何冊でも手軽に持ち運べますし。
遠藤 いろいろな人から電子書籍端末について話を聞いてきたけど、「いよいよ電子書籍は楽しみになってきた」と実感しています。
藤田 でもこうしてザウルスとGALAPAGOSを見比べてみると、本質は変わってないですよね。物理的には進化しているんですけど、考え方や行われていることは、1980年代に電子手帳を出していた頃とほとんど同じ。
今、スマートフォンが流行っていますが、本当は通信内蔵のPDAで実現してほしかったと僕は思っています。当時は通信のインフラを持つキャリアが携帯電話に力を入れており、PDAの市場はすたれてしまいましたが、外付けのモデムではなく、モバイル通信機能を内蔵したザウルスが登場していれば、シャープがその市場に食い込めたのかもしれない。そんな中、ウィルコムから登場したW-ZERO3は理想的とまでは行かないものの、僕が求めているイメージにとても近い端末だったと興奮したのを覚えています。
事実、今の携帯電話でシャープさんはすごく伸びています。でも一般の人から見ると、シャープの携帯電話というよりはキャリアの「SH」モデルという印象だと思います。
シャープさんは特許も含めていろいろな経験を持っているはずです。だからこそこのGALAPAGOSで、キャリアではなくシャープが出した個性的な製品というポジションもぜひ狙っていただきたいと感じていますね。