かつてないほど大規模に実行された、アニメ本編DVDの無料配布。
フリーミアムが声高に叫ばれていた時勢も追い風となり、アニメ「ブラック★ロックシューター」は2010年夏の話題をさらった。
だが、安藝社長がこの新手を打たざるを得ないほど「限界を感じていた」DVD販売ありきの深夜テレビアニメからして、フリーミアムの代表例といえる存在だ。
では、ブラック★ロックシューターが目指したものはいったい何か?
最終回となるインタビュー第3弾では、雑誌付録以降の展開そしてB★RSが切り拓いたビジネスモデルの未来についてじっくり語っていただいた。
窓口手数料を取らない理由
まつもと「まず雑誌の付録が始まりましたね。このときニコニコ動画での同時配信がなかったことに驚きました。やはり(ウィンドウを)コントロールしたのでしょうか」
安藝「ええ。製作委員会の幹事はウチでしたが、ドワンゴさんもグループ(AG-ONE)で製作委員会に入っていますから、出資企業としては当然最初から流したい」
まつもと「当然主張しますよね」
安藝「しかしそこはまあ、止めておきましょうとお話しました。ブラック★ロックシューターの製作委員会の面白いところは、企業はお金を出すだけでほとんど口を出さないこと。
これまでいくつかの製作委員会に関わった経験から、ごくごくコンパクトに意思決定してコントロールしないとIP(知的財産)は取り回せないと考えて、『僕に全部やらせてください』と最初にお願いしたんです」
まつもと「それが可能なのも、フィルムサイズが小さいから出資パートナーの出資金額も少なく済むからこそですね。テレビのような大型案件では難しいでしょう」
安藝「ですね。ただ、出資金額は小さいと言いつつも、やっぱり一定の金額にはなるんですよ。僕らが自由に企画を動かさせてもらえるのはフィギュアの売上を委員会収支に全部突っ込んでいることもあります。
『フィギュアを製作委員会に提供しますよ、これで利益が出た分は委員会で配分するから、裁量を下さい』と。そうやって何かを捧げないと、対価として自由は得られない。フィギュアユーザーさんまで巻き込むので、僕たちとしては大きな覚悟が必要ですが」
まつもと「等価交換的な」
安藝「自由を得て、かつ責任まで負うという。……あれ? よく考えると割りが合ってないぞ(笑)」
まつもと「等価じゃないですね(笑)」
安藝「改めてビジネスモデルを提案するためには、多分それぐらいのイノベーションというか、気持ちが必要なんですよ……!」
Blu-ray版はコレクターズアイテムとして販売
まつもと「そういった事前交渉があったからこそ、ドワンゴさんもそこは納得されて、タイミングをずらしての公開になった」
安藝「ですね。8月いっぱいドワンゴさんで流してその後はオフィシャルにはストップしています。しかし実際には、世界各地でアップロードされてますよね。頑張って削除申請したりしていますが、もう大変です。
いろんなところにアップロードされますし、その方法も巧妙になっていくので、現実的には拡散を止められません。ざっくり全再生数を足し算すると400万とか……全世界で観られているようです。
そしてDVDは結局67万枚配布しました。雑誌の他、ねんどろいどに付属したり、figma(figma:ねんどろいどと双璧を成す人気アクションフィギュア。販売元:グッドスマイルカンパニー/発売元:マックスファクトリー)に付属したり。手元にはもう1000枚ぐらいしか残っていません。これは海外とかイベント用ですね。
12月発売予定の初回限定セット(Blu-ray版&DVD版に、ねんどろいどぷち2体セット・絵コンテ集・ビジュアルムック付き)も予約好調です。DVDを60万枚以上配付したこともあり、通常版はBlu-ray版のみにしています」
まつもと「映像を売るというより、最早コレクションアイテム販売ですね。配布がDVDで、販売がBlu-ray。画質と付属アイテムでの差別化を図るというわけですね」
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