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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第16回

グッドスマイルカンパニー安藝貴範社長に聞く

ブラック★ロックシューターが打ち砕いたもの(1)

2010年12月03日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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本質――アニメのビジネス面をもっと取り上げて欲しい

グッドスマイルカンパニー代表取締役社長 安藝貴範氏。ゲーム会社を経て、2001年に同社設立。いわゆるスタチュー型のフィギュアに留まらず、安価かつプレイバリューの高いアクションフィギュアシリーズ「figma」「ねんどろいど」をリリースするなど、フィギュア業界をリードするキーマン

まつもとあつし「実は過去記事でブラック★ロックシューターについて触れたところ、“唐突に作品の宣伝が始まった”と受け止められ、読者からお叱りのコメントを頂きました。

 私としてはDVDを販売するのではなく、雑誌付録とするなど、アニメの商品化ビジネスを考える際に、とても興味深い事例を挙げたつもりではあったのですが、ちょっと言葉が足りなかったようです」

安藝社長「アニメに限らずフィギュアの世界でも、ファンと作り手は近い感覚を持っているようで、実はそうじゃない一面がありますよね。需要と供給の関係や、ビジネス上の都合とか、夢を壊しちゃいけないとか。あと、商慣習上やっぱり当事者からは言えないという部分もありますし。

 そういう意味では、業界の外の人が状況を整理してくれるのは、僕たちにとってはとても助かるんですよ。もちろんそれは正確でなければなりませんが。僕だけじゃなくてアニメの業界の人たちもなかなか言いたいことが言えない。誰かの取材をベースに、ネット上に記事として残っていくというのは良いことだと思います」

まつもと「そう仰って頂けると助かります。では早速ですが、ブラック★ロックシューターとどうやって出会って、最終的にDVDをホビージャパン誌をはじめとする雑誌付録にする決断をされたのか、その辺りの経緯をお聞かせ願います」

始まりは「初音ミク」だった

安藝「ブラック★ロックシューターとの出会いという意味では、やはり初音ミクが起点となります。

 田中(同社企画部の田中聡氏)が、それこそ『みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』が騒がれ始める前に見つけてきて、『これを商品化したい』と。そこで出させてもらったのが『ねんどろいど 初音ミク』。ここから始まったわけですね」

企画部の田中聡氏は初音ミク発売直後にフィギュア化を提案

2008年3月に発売された「ねんどろいど 初音ミク」。ここからB★RSにつながっていく

まつもと「初音ミクの発売が2007年8月31日で、『みくみく~』は同年9月20日発表ですから、それはかなり早いタイミングですね」

安藝「フィギュア屋にとって、新しいコンテンツを探してくるというのは習性みたいなものですからね。ヒットしたものをピックアップする、あるいはヒットする前に見つけてくる、その両方を常に模索しています。

 初音ミクの場合、2007年の9月中にはクリプトンさん(クリプトン・フューチャー・メディア:ヤマハの音声合成エンジンVOCALOIDを使ったDTMソフトの開発・販売会社。初音ミクなどのキャラクターの版権も管理する)に打診を始めていました。そして翌年3月に発売というスケジュールですね。

 ちなみに、面白いことにフィギュアの場合は、“ONEライツ・ONEカテゴリー”といったライセンス許諾の形を取らないことが多いんです。

 通常、オモチャならバンダイさん、ゲームならセガさんといった具合に、各カテゴリーに1社ずつライセンシーが割り当てられるのですが、フィギュアに関してはライセンサーも複数のメーカーに対して許諾を出すことが多くあります。

 これは元々フィギュアの市場が小さかったのと、同人的に派生してきたという歴史が影響しているところも大いにあるのでしょうね。いずれにしても、結果的にはそのほうが市場の選択肢が増えて、競争があるので僕は良いと思っています。

 初音ミクについては、当時は『瞬間風速で終わるんじゃないか』という見方が大多数で、もちろん注目していた関係者は多いと思いますが、各社とも直ぐに手を出すところまでは至らなかったというのが実情でしょう」

まつもと「フィギュアは企画から数えると販売まで1年半から2年くらいかかると伺っていますが、かなり短縮されたんですね」

安藝「いえ、今でも企画から販売に至るまでの時間は変わっていません。フィギュアの販売までは実際に着手してからでも最低8ヵ月はかかる。その間にブームが終わってしまうのでは、と各社考えていたと思うんですよ。正直僕も確信がもてなかった。

 でも、僕たちはそこを短縮できる武器を持っていたんです。頑張れば4ヵ月でリリースできる」

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