匠と疾風のコンセプト
富士通・経営執行役 パーソナルビジネス本部・齋藤邦彰本部長は、国内生産への取り組みを、「匠」と「疾風(はやて)」という言葉で表現する。
匠には、日本ならではのクオリティーを実現した技術を指す。そして、疾風は、お客様の声に素早く対応し、短いサイクルで、先進的な技術を役に立つ機能として実現する取り組みを指す。
「コンピュータセントリックの時代から、ネットワークセントリックの世界へ進化し、それがヒューマンセントリックな社会へと進化している。ここでは、行動パターンや生活様式をデータ化し、蓄積するライフログによる『Collect』、ライフログを組み合わせて新しい価値を創造する『Combine』、そして、いつも人が主役となり、人がICTに気がつかず、自然に活用する『Human Centric』がキーワードになる。これを実現するには、MADE IN JAPANでの生産体制が重要となる。日本の長い歴史のなかにある、人のために尽くすという滅私奉公の精神も、ヒューマンセントリックのものづくりの考え方にミートする」とする。
そして、「だからこそ、これからも国内生産の体制を維持する」と、齋藤邦彰本部長は宣言する。
コストの問題とどう向き合うか
だがその一方で、新興国における安い人件費をベースにした低コスト生産に対する効果をどこまで打ち出すことができるかは、国内生産体制の維持において、常に課せられる大きなテーマとなる。
一般的に、日本や欧米の先進国における労働賃金は月25万円程度。これに対して、チェコやメキシコでは約9万円、中国やタイでは約2万5000円といわれる。新興国とは10倍もの労働賃金格差があり、それを埋めるための手の打ち方が必要となる。
もちろん、組立に関わるコストはわずか数%であり、PCの全コストに占める比率は低い。だが、ODMでは複数のメーカーから製造を委託しており、それを背景にした大量調達によるコストメリットの差もある。
富士通では、「品質とデリバリーが国内生産を維持するためのポイントとなるが、その一方で継続的な生産の効率化への取り組みは不可欠だ」とする。
島根富士通や富士通アイソテックでは、トヨタ生産方式を採用することで効率化を図ってきた経緯があるが、ここにきて、それをさらに加速させている。
例えば、島根富士通では、2011年度を目標に、製品品質3倍、回転率2倍、生産台数2倍という「3.2.2」という指標を打ち出している。同時にリードタイム半減、棚残半減という目標にも取り組み、工場スペース、人員は現状維持ながらも、生産台数倍増を実現するという。
また、富士通アイソテックでも、2009年12月に生産ラインの大幅な改革を行ない、従来の14ラインから8ラインに削減しながらも、年間100万台規模の生産体制をそのまま維持。さらに、高温検査ラインを撤廃し、常温による新たな検査手法を導入することで試験時間を短縮化することに成功し、高信頼性を維持しながら大幅な生産時間の短縮を実現した。
こうした生産現場における数々の効率化が、継続的な国内生産体制の維持につながっているのだ。
国内生産にこだわるという考え方は、PCだけに留まらない。
IAサーバーは、デスクトップPCと同じ富士通アイソテックで生産されており、また、メインフレームは石川県かほく市の富士通ITプロダクツで生産されている。富士通ITプロダクツでは、理化学研究所に納入する次世代スーパーコンピュータ「京」も生産。やはり日本における品質の高い生産によって実現されているものだ。
富士通ITプロダクツでは、次世代スーパーコンピュータ「京」の生産にあわせて、トヨタ生産方式で目指した平準化生産において、「究極の平準化生産に取り組んだ」(富士通ITプロダクツの高田正憲社長)とする。
ミルクラン方式と呼ばれるジャストインタイムによる納入体制を、サプライヤーの27工場と連携することで、定期的に部材の納品や完成品の回収を行う仕組みを採用。これにより、デイリー納入による物量の平準化、棚卸資産の圧縮効果、納期管理工数の削減などが実現した。
部材の生産が平準化できたことでサプライヤーも専用ラインの構築にも踏みだすことができるようになり、これが結果として品質を引き上げることにも直結。73社233部品で受入検査レス体制を可能にしたという。
今後は、こうした実績を、メインフレームの生産やサーバー、PCの生産にも反映させていくことになるという。
ノートPC生産の島根富士通では、「世界トップ品質の提供による顧客満足度の向上」、「中国・台湾に対抗できるコスト競争力の強化」、「スピーディでフレキシブルな製品供給体制の強化」の3つを目指すとする。これが、富士通が目指す国内生産へのこだわりの源泉といえる。
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