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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第14回

アスキー総研 遠藤諭所長に聞く

コンテンツ消費データ「MCS」でアニメ消費の今を見る

2010年10月12日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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“一期一会”から“いつでもネットで手に入る”時代へ

遠藤「かつて私は旅行中にレアものを見つけると、その場で買っちゃってました(笑)。ところがオークションサイトのeBayが登場して以降、ぱったりと収まった。なぜなら、もう一期一会ではなくて、いつでも手に入るという世界がやってきてしまったから。

 こういう調査って、占有論というかどのメディアにどれだけ時間やお金が投資されるのか、といった観点で見ることがほとんどだったけれど、ネットの登場とそれによるメンタル(消費者マインド)の変化で、そこに誤差というか、先ほどのような空白が生まれるようになってきた、と言えるかもしれないね。

 クリス・アンダーソンの著書『FREE』の解説で、監修の小林弘人氏も言及している“無料の万有引力”のような見えない力が働いているのかもしれない。

 『ネットにいつでもあるよ』『ひょっとしたらタダで手に入るかも』といった、所有していないにもかかわらず、あたかも所有しているかのような錯覚。それが昨今のコンテンツ業界における“なんだか帳尻が合ってない気がする”原因じゃないかなあ」

縮小均衡を良しとするか?

「ケータイを触る時間が増えたからテレビ視聴時間が減ったとか、そういった単純な足し算・引き算では語れなくなっているのでは」(遠藤)

まつもと「そんな状況の中、作品数が減っても縮小均衡だからOKじゃないかという意見もあります」

遠藤「作品の質は上がるよね」

まつもと「はい。ただ海外への輸出、あるいは海外勢との競争といったことを考えた際に、果たして縮小均衡でいいのか、という疑問を私は持ってます。

 中国で熱心なアニメファンと話したことがあるのですが、彼らは本当に時差なく作品を心待ちにして楽しんでいる。まだそこにお金をきちんと払ってもらう仕組みがないという問題はあるにせよ。

 遠藤所長はアジアを歴訪されていますが、日本アニメはどのくらい浸透しているのでしょう?」

遠藤「アジアはやはり違法配信が多いですよね。あと中国では放送枠を制限していることもあり、そもそも供給量が足りていない。中国や香港はNARUTOやONE PIECEなどのいわゆる普通のアニメ、いわば音羽一橋系が強い。

 台湾は違法が多いけど、ファンも多くて傾向もだいぶ違う。萌え系が大人気で角川的なんだよね。台北市は秋葉原と地下でつながってるんじゃないか(笑)」

まつもと「なるほど(笑)。一口にジャパニメーションといっても多様なジャンルがあり、さまざまな消費がされていますね。ですが、縮小均衡に従ってタイトルも絞り込まれることで、その多様性が維持できなくなるのではと考えるのは杞憂でしょうか」

遠藤「実は、アスキー総合研究所ではフランスに関するレポートも出していて、JAPAN EXPOで“なぜ日本のコンテンツがウケるのか?”というインタビューを出展者に行なっています」

アスキー総合研究所では「JAPAN EXPO」の創設者ジャン=フランソワ・デュフール氏をはじめとする、フランス在住の日本コンテンツ関係者にインタビュー調査を行なっている

遠藤「日本の漫画を初めてフランスに輸入したドミニク・ヴェレ氏は、『フランスの経済が悪いため、子供が満足するようなコンテンツが十分に供給されていないという状況に、日本のコンテンツがうまくはまった』と述べてますね。

 ちょうど、アジアのコンテンツ不足が日本漫画の流入を招いたのに似ています。

 フランスではアメコミも実はよく読まれているんだけど、やはり青年向けで、純粋な子供向けが足りてなかったわけです。

 あとJAPAN EXPOの主催者にも話を聞いたんだけど、フランスの漫画は書き手も文芸の空気が強くて、3年に1回しか新作が出ないといったこともある。でも日本の漫画は毎週連載されていて、数ヵ月待てば新刊が出てくるわけです。

 となると、作品そのもののバリューよりも(市場に入り込むという観点からは)供給力が重要だよね。ディズニーやハリウッドがそうであるように。ロシアでも地上波でアニメ専門チャンネルがあって、現状だと6割が日本アニメと言われている。

 実はアニメ業界の人と話をしていても、『供給力は重要で、それこそハリウッドの5大スタジオがコンテンツを安定供給できる体制を見習うべきだ』という意見が出てきます。とはいえ、均衡点というか質が落ちてしまってはどうしようもないので、そこはバランスが必要とも思いますけどね」

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