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編集者の眼第10回

Webいるの?意味あるの? ドキッとする本質論

2010年05月13日 11時00分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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 トライバルメディアハウスは、ソーシャルメディアマーケティングを支援するマーケティング会社だ。キズナのマーケティング(アスキー・メディアワークス刊)という新書が出たので著者である同社の池田紀行代表取締役に話を聞きにいって最初に出てきたのが「ソーシャルメディアマーケティングでできることって、実は意外と少ないんですよ」というそもそも論だった。

池田氏

トライバルメディアハウスの池田紀行代表取締役

 「トライバル(tribal:部族の)」というくらいだから、「これからはマスマーケティングで消費者をセグメンテーションする時代ではなく、一定のライフスタイルを持つ消費者を部族と見立てて、クチコミで商品の存在を知らせるトライバルマーケティングでウハウハですよ、アッハッハー」みたいな社長が出てくるのかと取材に挑んだが、全然違った。170°くらい違った。

 「20代前半を英会話学校の営業で過ごした」という池田氏。縁あって26歳で飛び込んだマーケティング業界でミッチリ基本を叩き込まれた目で見た広告業界は、「特殊な世界」だった。「たとえばメーカーの宣伝部って、社内でも特殊な人たちだと思うんですよ。何度もグルインや定量調査をやって新商品の企画を考えて、という商品企画・マーケティング部門の人たちと宣伝部の人は明らかに人種が違う。次から次へと新しいことに飛びついて、あんまりその検証はしない。Plan、Do、Seeのプロセスでいえば、計画は立てて実行するけど、反省はしない。もちろん効果測定はしますけど、課題の設定や手法が正しかったのかってところの検証はあまりしていないと思います」

 とはいえ、マスマーケティングが中心で大手広告会社に丸投げしていればよかった時代であれば、これでも宣伝はなんとかなった。Webサイトで商品説明のコンテンツを充実させて、「同業他社より検索順位が上ならOK」「他社もやっているからうちもやろう」で済むなら、今までどおりでも企業は安泰だ。ところが、「ソーシャルメディア」の影響力が増してくると、そうもいっていられない。

「100%エージェンシー任せだと、血の通ったマーケティングがおろそかになる。ソーシャルメディアマーケティングは、本当にお客様のことを考えているのか、企業の文化の差が出てしまう」というわけだ。今までテレビの向う側や仲間内で感想や文句をいっていた人たちのおしゃべりが、目に見える形で蓄積され、どこの企業のどんな商品について、消費者が本当は何を考えていたのかわかってしまう。こういう状況を脅威ととらえて、何とか批判を抑え込むにはどうしたらいいのか考え出すと、ソーシャルメディアマーケティングの失敗事例の仲間入り。「どういうときに、もしくはどうすれば自社の商品、サービスが褒めてもらえるのか、そのプロセスを考えるのがソーシャルメディア時代のマーケティングマネジメントだ」というのが池田氏の考えだ。

 すでに「ソーシャルメディアマーケティングって巷で言われているほど万能なの?」という問いかけを始めている大手企業もあるという。「これからはWeb広告の時代」「クチコミで人気爆発」のような夢物語ではなく、あくまでソーシャルメディアマーケティングを企業活動の手段として捉える。ドキッとする本質論に出会った気がした。


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