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編集者の眼第62回

ボーナス支給日確定で新聞社を辞めた人に贈る本

2015年12月04日 12時00分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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「新聞記者さんの退職報告が相次いでいる」というツイートに、私の周りがざわついた。

「なんとかフィード」は2006年に米国で設立されたニュースサイト「バズフィード」のことだろう。インド、ブラジルなど世界各国に拠点があり、ヤフーとの提携で日本法人も8月に設立された。10月には元朝日新聞記者の古田大輔さんの創刊編集長就任が発表された。1月ころには国内サイトがオープンすると思われる。

TechCrunch Disrupt NY 2013 - Day 1 by TechCrunch

新聞社から若手が離れるのは、もう未来がないからだ。20代前半で入社し、4~5年間地方支局で修行すると、最初の本社勤務は20代後半。しかし、今の新聞社は情報の最末端だ。「ネットで流行ったことを取材し、事実かどうか検証し、本人から直接話を聞くのがジャーナリズムに課せられた使命だ」と粋がっても、所詮は後追い取材。しかも本社の販売・管理部門の同期と飲みに行けば、社内の権力闘争、深刻な部数減、配達員が孤独死を見つけた話など、支局時代には見えなかった新聞業界のあらゆる姿が分かってくる。読者の平均年齢が60代とすれば、20年で半分の人が平均寿命に達する。業界にも自分にも後がない、と察するのが30代前半なのだ。

Press Conference on Death Penalty Repeal Passage by Maryland GovPics

「退職報告が相次いでいる」というので、マスコミや転職先と思われる企業の知人・友人・親類から話を聞くと、新聞社、出版社からデジタルメディア企業への転職は、ボーナス支給日が12月10日前後に確定したことで、ここ数日相当数報告されたのは確実だ。ただ、同じ部署から若手が何人も退職すると部長の責任問題にもなりかねず、「よそに漏らすなよ」という空気もあると聞いた。本当の責任はデジタル時代にどう生き残るのか、ニュース記事をWebサイトに公開するようになって20年間、ほとんど何も考えてこなかった歴代経営陣にあるのに、だ。

Profitable digital content: It's all about the value by opensource.com

私が上記と異なる理由で新聞社を辞めたのは29歳のとき。以来、デジタル時代にどう生き残るのか必死に考えてきた。Web Professionalで刊行している書籍は、そのときのニーズに沿うことが第一だが、実は従来型メディアがデジタル化するときの必須知識も学べる。新聞社に辞表を出し、有給休暇の消化期間中に読むなら、次の4冊がオススメだ。

『ビジュアルWeb解析』は、サイトやビジネス設計の考え方を図にするとKPIの設計などがやりやすい、という本。ちなみに「KGI」を英語版Googleで検索すると、いかに日本のWeb業界がいい加減かわかる。それはそれで調べてみるといいだろう。

『リスティング広告 プロの思考回路』は、元Googleの精鋭が執筆しているので、Webマーケティング的考え方を身につけるのに最適だ。少し古くなってきたのでそろそろ改訂したいが、操作方法の本ではないので、今でも考え方の基本は学べる。

『Webライティング実践講座』は、私とロフトワークのスタッフとの共著。新聞社、出版社のやり方で育った私が、Webの方法を探って得たノウハウを包み隠さず書いた。これを土台に自分のやり方を模索して欲しい。

『レスポンシブWebデザイン』は、画面の大きさに追随してデザインを切り替える技術のこと。海外ニュースサイトでは対応するのが当然なので、新規サイトの立ち上げに関わるなら、必須の知識だ。

最後にふたつ忠告がある。ひとつは、若い業界特有のグレーゾーンに慣れること。ふたつめは、日本の大企業のよさを噛みしめることだ。

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