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Windows 7対応の裏側に見た国内ISVの秘めた実力 第14回

フォトロン「図脳RAPID 16/16PRO」

すべての図面利用者に普及を! 最新国産CADの開発秘話

2010年04月22日 09時00分更新

文● 塩田紳二

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Windows 7対応でファイル管理が便利に!
開発のキモはGUI刷新とAutoCAD互換

―― CADソフトのWindows 7対応とは、具体的にはどういうところでしょうか?

CADソリューション部開発グループ長の権藤浩喜氏

CADソリューション部開発グループ長の権藤浩喜氏

権藤 Windows 7特有の新機能と言えるのは、Windows VistaからWindows 7になって変更された“プロパティハンドラ”あたりです。ただ、今回の(図脳RAPIDの)バージョンアップはユーザーインターフェースの大幅な変更を伴っているので、実際にはプログラム自体が大きく変わりました。そのため、Visual Studioのサービスパックに含まれているフレームワークを使いました。

―― フレームワークの採用で、OfficeライクなGUIへの対応は簡単だったということですか?

権藤 実は、そうでもなかったのです。採用したフレームワークはそのままでは正しく動かなかったため、自分たちで手を入れることになりました。そういう意味で、土台があったのでゼロから作る必要はなかったのですが、かなりの作業が必要でした。一番の苦労はここですね。

 我々も、サードパーティ製のフレームワークを比較・検討したのですが、最終的に採用したものと比較すると負荷の高いものが多く、シビアな応答速度が求められるCADでの採用は困難でした。

 ただ、最初のうちは「スキン」の切替機能を実装していたのですが、どうも、あらかじめ用意されたスキンでも、選択によっては動作が不安定になるものが多く、最終的には比較的安定動作するスキンに限定し、スキンの切替は禁止することにしました。これでかなり安定して動くようになりました。また、一部動作しなかった機能などもあり、こちらも修正を行ないました。

―― プロパティハンドラへの対応とは、どういうことでしょう?

権藤 「図脳RAPID 16/16PRO」には、「図脳エクスプローラー」というファイル管理機能が付属しています。これは作成したCAD関連のファイルを扱う、Windows 7のエクスプローラーのようなソフトウェアなのですが、この中で、Windowsが提供する「プロパティハンドラ」機能を利用して、CADデータの情報が得られるようになりました。それを利用することで図脳エクスプローラーの機能を実装しています。プロパティハンドラはWindows Vistaから追加された機能で、それ以前は異なる手法で図面ファイル情報を扱っていました。

 図脳シリーズは、Windows Vista対応の際にプロパティハンドラにも対応したのですが、Windows 7では仕様が少し変更になっており、これにも対応しなければなりませんでした。ただ、図脳RAPID 15でWindows Vista対応を果たしていたことで、Windows 7への対応自体は比較的スムーズに行なえました。。

図脳エクスプローラー

図脳エクスプローラーでの図面ファイル管理画面。サムネイルとファイル名で目的の図面を見つけやすい

印刷設定の画面

印刷設定の画面では、ページプリンターへの連続印刷や、ペンプロッタに最適なモードなどを選択できる

―― そのほかに苦労したところや変更した点はありますか?

権藤 そうですね。やはり、インストールの際の“権限昇格”です。これを自動で行なうには、インストールプログラムに「setup」や「install」という名前を付ける必要がありますが、開発の都合もあり、必ずしも自由に名前を付けられなかったため、少し工夫が必要でした。

 また、CADデータをメールでやりとりする際に、メールクライアントソフトに依存しないMAPI(アプリケーションとメールクライアントをつなぐ標準インターフェース)を使っていたのですが、Windows 7対応に伴って、別途MAPI対応の標準的なメールソフトがインストールされていなければメール送信ができなくなっています。

 Windows 7からマイクロソフトのコンセプトに従って、Windows Liveのメールクライアントに移行したため(関連記事)。


図脳RAPIDは最初からVisual Studioで分業開発!

―― 開発には、いつからVisual Studioを採用しているのですか?

権藤 32bit版アプリケーションになった「図脳RAPID」から、ずっとVisual Studioで開発しています。1つ前のバージョン「図脳RAPID 15」は、Visual Studio 2005でしたが、最新版ではVisual Studio 2008に切り替えました。

―― 開発期間はどれぐらいかかったのですか?

権藤 1年数ヵ月ほどになります。先ほども述べたように、ユーザーインターフェースを含めた大きな変更になったため、開発にも時間がかかりました。Windows 7のβテスターをやっていたので、β版を使って評価しつつ、出荷のタイミングを考えて対応方法を検討しました。2009年1月の(Windows 7の)β版のタイミングで、「図脳RAPID 16でWindows 7に対応すること」を決定しました。

―― Silverlightなどへの対応も検討されていますか?

権藤 図脳シリーズの基本プログラムは、C++とMFCで開発しているので、C#などへの移行はすぐには難しいと思います。ただ、当社の別の製品や教育分野向け製品では、すでにSilverlightを採用している製品もあります。新規開発する製品については、.NET Frameworkを使うものもありますが、以前から開発を重ねている製品は従来の環境でも追加のランタイムが不要になるべく、MFCのまま継続しています。

―― 64bit対応はどうですか? 図脳RAPID 16/16PROでは32bit版と64bit版が同梱されているそうですね。

権藤 64bit版Windowsへの対応は、Windows 7対応と同時に行ないました。もともと32bit版でも比較的高速に動作していたので、同じハードウェア構成なら、32bit版と64bit版でそれほど速度の違いは出ません。開発側からすると、もう少し差が付く(64bit対応のメリットが出る)ものと想像していました。とはいえ64bit対応により、従来よりも大きなメモリー環境で動作するので、機能によっては(64bitのほうが)有効な手法が採用できるメリットはあります。

 64bit版Windowsでは、GB単位のデータも容易に扱えるし、メモリー増設の効果も高く、当社も64bit版には高い期待を持っています。当社では図脳RAPIDのグレードアップ製品で、紙図面や地図をCADデータのように操作できる「図脳デジタルシート」というラインナップがあるのですが、この製品は、スキャナーで取り込んだ紙図面を何枚も合成してPC上で利用できるので、メモリーの使用量が非常に多くなります。64bit版を使用することで、将来さらに処理速度が向上できるのではないかと見込んでいます。

 当社製品のユーザーも64bit版には高い期待をかけていただいており、Windows XPの頃から64bit OS環境で動作させたユーザーさんもおられました。今後は64bit OSが標準になっていくことを期待しています。

―― 大規模データを扱うビジネスソフトでは、確かに64bit OSのメリットが享受できそうですね。本日は長時間、ありがとうございました。

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