Windows 7対応の裏側に見た国内ISVの秘めた実力 第11回
マグノリア「チューブ&ニコ録画2 Windows版」
動画関連ツールの7対応は案外すんなり!? その理由は…
2010年03月15日 14時00分更新
いち早くWindows 7対応を果たしたメーカーに、その苦労や裏話、今後の展開などを聞く開発者インタビュー。今回は、“YouTube”と“ニコニコ動画”のオンライン動画をPCに録画できるユーティリティーソフト「チューブ&ニコ録画2 Windows版」を販売するマグノリアを訪問した。
同社は、本ソフトのようないわゆる“ネットツール”だけでなく、Windows Vistaのユーザーインターフェースを、Windows XPのものに近づけるソフト「Back To XP」なども手がけている。一見すると無関係に見える両ソフトだが、ユーザーの立場になって、いま何が求められているかを判断し、臨機応変に製品投入した結果だという。単なるソフトウェアの移植(日本語化)に止まらない同社の姿勢が、今回のインタビューで見えてきた。
インタビューは東京・目黒にあるマグノリア本社にて、代表取締役社長の広沢一郎氏と、プロデューサーの村田典弘氏に応じていただいた(以下、敬称略)。
ゲームからビジネスツールまで
幅広く展開するマグノリア
―― まず御社の概要と、どのような製品があるのか教えてください。
広沢 1998年4月に設立しましたから、この春で12年になりますね。最初は、囲碁や将棋といったWindows用の定番ゲームソフトを中心に開発・販売していました。Windows XPが登場してからは、消去済みファイルの復元ソフトといった実用的なユーティリティーソフトにも幅を広げています。ほぼすべてがコンシューマー向けで、珍しいところではプレイステーション用の定番ゲームなども手がけたことがあります。2005年からは、オンライン動画サービスの録画や動画編集、ファイル形式の変換ソフトなど、現在の主力ラインナップとなる動画関連製品を増やしています。
―― プログラム開発は、社内で行なっているのですか?
広沢 社内スタッフは、プロデューサーと営業しかいません。プロデューサーがマーケティングから企画・仕様書までを作り、プログラム開発は社外に委託しています。デバッグや最終調整は社内で行ないますが、いわゆるパブリッシャー的な業態です。
一口にユーティリティーソフトといっても、さまざまなジャンルがあります。開発側のスキルに応じて仕分けしつつ、「このジャンルであればいける」と感触を得られれば取り組みます。ただし、これから伸びる可能性があるものでも、すでに大手が先陣を切ってやっているところには参入していきません。
―― 動画関連が主力製品になったのには、どのような経緯があったのでしょうか?
広沢 当時まだ誰も手を付けていないジャンルについて、少しずつ手がけています。当たったり当たらなかったりと、結果はいろいろです。動画関係のパッケージソフトとユーザーインターフェース関連のユーティリティーソフトは、どちらも他社に定番と呼べるソフトがなかった頃に一足先に参入できたので、比較的うまくいきました。
新OSのユーザーインターフェースを
馴染みのあるものにあえて変える理由
―― 具体的な製品について、教えてください。
広沢 この「Back To 2003 Pro」ですが、「Microsoft Office 2007」が登場したときに、ユーザーから「新しいユーザーインターフェース(リボン)に馴染めない」との声がありました(関連記事)。一方で、Office 2007のメニューバーやツールバーはカスタマイズできるとの情報もありましたので、それなら極力少ない手間(全自動)で、昔のユーザーインターフェースに合わせられるようにして、ユーザーの戸惑いを減らそうとしたのです。つまり、リボンインターフェイスをカスタマイズすることで、最新のOffice 2007を以前のメニューバーやツールバーで使えるようにしたわけです。さらにOffice 2007が標準で持たない機能――例えば“PDF作成”(マイクロソフトが無償提供するプラグインを追加すれば可能、関連記事)や“JPEG画像への変更”(ファイルサイズの縮小)などの機能を付加しています。これらの機能はご好評をいただきました。
■Amazon.co.jpで購入
もうひとつの動画関係ソフトでは、YouTubeやニコニコ動画の動画を“録画できる”「チューブ&ニコ録画2 Windows版」です。お客様が撮影されたビデオやコピー防止のかかっていないDVDビデオを、iPodやPSP、携帯電話などで見られる形式に変換する「動画&DVDダビングPRO Windows版」もあります。
―― これらの動画ソフトについて、開発時のポイントを教えてください。
村田 Windows 7とWindows Vistaなど、PC環境の違いでは問題なかったのですが、動画変換ツールの動画&DVDダビングPROの場合、動画出力の形式が把握しきれないために苦慮しました。例えば携帯電話の動画と言っても、通信会社や機種、電話機メーカーによって対応形式が違うので、大変でした。
広沢 チューブ&ニコ録画2は、録画元をYouTubeとニコニコ動画に限定していますし、再生もPC上なのでそうした問題はありません。ただ、最近気になっているのは(Windowsの)32bit版と64bit版の違いですね。ユーザーサポートの状況を見ていると、自分が64bit OSを使っていることを知らないユーザーも増えています。
―― ユーザー自身が64bit OSの必要性を実感するのは、まだ先の話ということでしょうか?
村田 ソフトウェアメーカーとしてそこが恐いところなのです。4GB以上のメモリーを標準搭載したPCが増えてきて、“メインメモリー3GBの壁”を打破するためだけに64bit OSを入れるというユーザーもいらっしゃいます。ところが、その環境では昔のソフトが動かなくて、ショップなどに問い合わせをすると、初めて64bit OS(と32bit OSの違い)を知るとか……。
広沢 現状、3GB以上のメモリーを積むことが効果的に働くアプリケーションは(特にコンシューマー向けで見ると)まだ少なく、恩恵を受けるユーザーは実際それほど多くないでしょう。ソフトメーカーから言えば、64bit OSの特徴をうまく生かして、「64bitだからこの速さが出るんだ」、と実感していただけるような作りにしたいと思うのですが、現実には32bit OSのユーザーも多いですから。
Windows Vista&7対応は事前の準備でスムーズに!
―― 御社の場合、多くの製品がWindows 7に対応していますが、移植作業はスムーズに行ったのですか?
広沢 Windows XPで動いているものが、そのままWindows VistaやWindows 7で問題なく動いたものが数多くありました。特にゲームソフトはそうでした。また、ファイル復活などのシステムユーティリティー関連は、Windows Vistaで動かなかったものが多く見つかりましたが、こちらはβ版やRTMが登場した時点で問題部分を洗い出して修正するという形で対応しました。
村田 (当社の)初期からWindows XP時代までの多くは、Visual Basicで作成していましたが、Windows Vistaが登場する前に、開発言語をC++に切り替えました。OSが変わることとはあまり関係なく、単に開発環境が古かったので変えたかったという理由からです。またWindows版とMac OS版のリソースを統合したかったこともあります。その時点でWindows Vistaの情報もある程度得られましたので、事前に対応できて、あまり問題を出さずに済みました。この点が大きかったですね。
広沢 (Windows Vistaになると)特にインストーラーでつまずくだろうと予測していました。当時はフリーソフトのインストーラーを使っていたため、Windows Vistaのβ版やRTMで動作検証しながら、結局インストーラーを変更することで対応しました。率直に言ってWindows XP→Windows Vistaはジャンプアップでしたが、Windows Vista→Windows 7はスムーズでした。
―― UACの搭載や(保存ファイルの)パスの変更、権限昇格などはいかがでしたか?
広沢 事前に予測していた通りに、引っかかりました(笑)。というか、予想よりもうまくいったという感じですね。もっとひどいことになるかと、心配していたのです。
村田 もっと多くの問題が出てくるかな、と考えていました。もともとシンプルな作りのプログラムが多いこともありましたが、最初から設定ファイルやデータファイルを、マイドキュメント以下に保存する仕様にしていたのが良かったのでしょう。これらをプログラムファイルフォルダーの下に置くようにしていると大変だったと思います。
広沢 Windows Vista対応の際に、UACやフォルダー構成の変更などの対応を済ませていたので、そのままWindows 7でも動かすことができました。動画は各種形式に変換できるのですが、Windows 7で、高圧縮コーデックとして標準になりつつある“H.264”が標準サポートされたのは、動作環境としてはありがたいことです。
村田 コーデックは権利関係が複雑で、Windowsは(標準状態では)動画関係が弱いところがありますよね。その点を踏まえて、ユーザーから重宝してもらえるソフトを出していきたいと考えています。また、チューブ&ニコ録画2はInternet Explorerと連携するのですが、プラグインなどとして動くのではなくプログラム側で単独で動きます。WebブラウザーからURL情報を持ってくるだけですから、IE6以上であれば何の問題もなく動き、(Windows 7で標準の)IE8でも不具合は出ませんでした。
■Amazon.co.jpで購入
この連載の記事
-
第17回
ビジネス
Windows 7や.NET Framework開発者がいま直面する課題! -
第16回
ビジネス
Windows 7 ソフト開発最前線からの目線(下) -
第15回
ビジネス
Windows 7 ソフト開発最前線からの目線(上) -
第14回
ビジネス
すべての図面利用者に普及を! 最新国産CADの開発秘話 -
第13回
ビジネス
老舗PCゲームメーカーの矜恃――Windows 7ロゴ取得の裏話 -
第12回
ビジネス
16代目の家計簿ソフトはPCと生活スタイルに合わせた進化 -
第10回
ビジネス
分業開発も新OSにもいち早く対応! 会計ソフトの最前線 -
第9回
ビジネス
好きな家を何軒も!使いやすさ追求の住宅建築シミュレーション -
第8回
ビジネス
Windows 7発売に間に合ったパーティションソフトの真実 -
第7回
ビジネス
日本生まれの会計ソフトがSilverlightでUXを手にした理由 - この連載の一覧へ