“全巻売り”のアイデアで大手ECサイトを上回る
『漫画全巻ドットコム』が、後発組にも関わらず市場で頭角を現すことができた理由を、安藤さんは「漫画を全巻セットにして販売したこと。これに尽きるのではないかと思います」と分析します。
「漫画はAmazonでも購入できます。しかし当時のAmazonのシステムでは一括購入はできず、30巻の漫画を全巻揃えようと思ったら注文ボタンを30回も押す必要がありました。人気漫画の最新刊はどこでも買えますが、全巻は揃っていないところの方が多い。古本屋は唯一、全巻をセット販売することがありますが、数はかなり限られるため、自分が欲しいと思った漫画の全巻セットを買える確率は低いと思います」
このように、大手ECサイトでも「やっていないこと」「できないこと」はあり、それが漫画という商材でいえば、全巻のセット販売だったというわけです。ありそうだけど実はなかった商材をいかに見つけ、“潜在需要”を掘り起こすことができるか――。中小規模のショップが生き残るには、こうした独自の視点で市場を見る姿勢が欠かせません。
売り方の工夫で大型書店をもしのぐサービスを
一方で、勝負の相手は大手ネットショップだけではありません。駅前やショッピングモールに実店舗を構える大型書店も漫画を扱うライバルです。現在は中小書店がこうした大資本・大流通量の大型店に淘汰される流れが強くなってきていますが、実店舗の場合、1つのマンガが1つの店で全部手に入るとは限らないこと、仮にあったとしても今度はそれを持ち帰る手間が発生してしまいます。そうした意味で言えば「必ず全巻揃う」「自宅まで発送してくれる」という『漫画全巻ドットコム』の売り方は、大型書店とは異なる手法で、十分に勝負できている、と言えるでしょう。
商材そのものは「よくあるもの」であっても、既存店とは違った販売方法を工夫することで、「大手にも負けない商材」に変えられます。その“工夫”こそが、市場の縮小や大手参入による競争激化へ立ち向かうポイントです。安藤さんの場合、それが「全巻セット売り」という切り口だったのです。
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ところで、こうした独自の販売戦略を展開するには、その商材を求める消費者の心理を推測し、効果的にアピールできる手段を考えることが重要です。次回は消費者へのアピールの仕方について紹介しましょう。