新VAIO Z開発者インタビュー
「あきらめない価値」を追求したモバイル 新VAIO Z
2010年03月01日 12時00分更新
削り出しボディーは「軽さを実現する構造」のために
高級感・操作感という点では、新VAIO Zには大きな特徴がある。それは、パームレスト先端からシリンダーまでを覆う本体ボディー上部に、削り出し加工のアルミ素材が採用されている、ということだ。
完成品のボディー上部は薄くて軽いものだが、その元となるアルミ板は驚くほど重く、分厚い。加工前の重量は公開されていないが、VAIO Z自体とアルミ板を持ち比べてみると、明らかにアルミ板の方が重い。すなわち、アルミを数分の一の重さまで削り込み、ボディー上部に利用しているわけだ。もちろん、削ったアルミは再利用し、ふたたび素材に戻される。
削り出し加工と言えば、アップルの「MacBook Pro」や「MacBook Air」での利用例が有名だが、あれらと違い、VAIO Zでアルミを使っているのは本体のボディー上部だけで、それ以外はほかの素材を利用している。アルミを使った目的は軽量化だ。
鈴木「本体を軽くしようにも、フットプリントは前モデルと同じですから、素材の重さと高さを減らすしかない。CFRP(カーボンファイバー積層板)での軽量化はある程度のところまでやりきった、という感触があります。ですので次の素材として選択したのが、今回の『削り出し』だったんです」
「後出しのように思われると思いますが、我々は『構造』を軽量化するための選択と考えています。アルミ板を単純に削っているのではなく、サイドや曲面には厚みを持たせて削っています。ですからここでも、構造で剛性を保っているのです。ボトムには単炭素繊維をCFRPに編み込んだものを採用しています」
金森「剛性感は相当上がっているはずです。タイプした時の感触も良くなっています。従来までのボディー上部にはアルミ『絞り』加工を使っていましたが、今回は『切削』がベスト、と判断しました。深い立ち壁を作らないと、これだけの剛性は出ません。となると、絞りではできないんですよ」
「また、以前は電源ボタンの周りも複数のパーツを組み合わせていましたが、今回は天板に一体化しています。これも、軽さ・剛性の点で有利です」
鈴木「切削でアールのついた形にしているのですが、こうすると擬似的な壁になるので、曲がりにくくなる。結果的にキーボードの四方を全部壁で覆う構造になるので、薄くても頑丈なんですね」
「これ以上薄くしようとすると、補強材が必要になるでしょう。今回はできるだけひとつのパーツで作ることで、軽く頑丈にしているわけです」
アルミ削りだしボディーの採用は、高級感を演出するためだけでも、丈夫にするためだけでも、軽さを実現するためだけでもない。さまざまなことを「同時に実現」するための選択だったのである。
「実は、ボディー上部のサンプルを加工工場からもらうのも大変だったんです。『これを出さなきゃもう1台作れるんだよ』と言われるとね」そう鈴木氏は笑う。
VAIO Zは決して安価なノートパソコンではない。だがそれゆえに、買った人が満足できる「価値」が必要だ。性能面が注目を集めがちな製品だが、触った「感触」にも価値がある。それは単純な高級感ではなく、「しっかりした製品」らしさ、とでもいうべきものだ。Zシリーズは何度ものモデルチェンジを経て、「性能+α」へのアプローチが実を結びはじめたようだ。
筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」「iPhone仕事術!」(朝日新聞出版)。
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