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矮小化された「グリーンIT」論への警鐘

スマートグリッド入門 ~賢い電線が注目されるわけ

2009年12月17日 09時00分更新

文● 松本淳

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日本ではスマートグリッドが不要という意見もあるが

―― マクロ・ミクロ両方の観点でメリットがあることは分かりました。いいことづくめですが、最初に新しい機器を導入したり、既存のインフラを置き換えるコストは無視できないように思いますが、いかがでしょうか?

スマートグリッドには個性があると話す福井エドワード氏

福井 「太陽光発電機器を導入した家庭に対して、FIT(固定価格買い取り)制度が用意されています。これまで電力会社は家庭に対しては電力を23円(時間帯によって変動)で販売していましたが、今年の11月から条件を満たした太陽光発電によって生まれた電力に対しては、46円で電力会社が買い取ることが義務付けられました。

 この仕組みによってこれまでよりも短い期間(約7~8年)で設備投資を回収できると言われています。今後、これが太陽光だけでなく、風力などの他の自然エネルギーにも適用範囲が拡げられるのではないかと期待が集まっているところです」

―― なるほど。ただそうなると、電力会社にもこれまでのビジネスモデルを大きく転換することが求められるでしょう。アメリカに比べ停電の少ない日本ではスマートグリッドは不要ではないかという議論もあるようですが。

福井 「新書でも述べていることですが“スマートグリッドには個性がある”と言えます。つまり、国や地域によってグリッドに求められる目的や、必要となるインフラが異なってくる点をまず理解しておかなければなりません。

 確かにロスが減る分、電力需要そのものは減少します。送電網も含めて一体的に事業を展開してきた日本の電力会社にとって、直接的はマイナスになることは否定できません。

 一方、スマートグリッドは大きな技術革新(イノベーション)でもありますから、電力会社はもちろん、これまで電気ビジネスとは関わりの薄かった業種にとっても、様々なビジネスチャンスが生まれるととらえるべきでしょう。住宅・家電・クルマではそれがすでに始まっていますが、売電のオークションや先ほどのPowerMeterに見られるようなウェブ・モバイルなどのITコンテンツ/ハードウェアの分野にも様々なビジネス展開があり得るはずです」

スマートグリッドのレイヤー構造。インターネットのプロトコルのようだ


インターネットビジネスとよくにた成長を遂げる?

―― 新書でも述べられているように、インターネットビジネスの成長とよく似ている面があるとも言えますね。

福井 「スマートグリッドというインフラが整備されていくことで、EV(電気自動車)といった新しいアプリケーションが生まれ、進化していくでしょう。こうした過程は、まさにそうだと言えますね。特に日本では、すでにインターネット・モバイルの通信網がかなり充実しているので、これらと組み合わせることで、私が申し上げた電気網と情報通信網の融合が生まれ、周辺の産業・ビジネスにも大きな発展の機会が生まれてくると考えています」

―― 日本型のスマートグリッドや関連サービスが海外市場に対して競争力を持つ機会もありそうです。

福井 「十分にそうだと言えます。しかしその一方で、そのために標準化作りにも積極的に関わっていかねばなりません。グリッドと呼ぶくらいですから、様々な機器・インフラが接続し、円滑に通信・コミュニケーションが行われる必要があるのです。

 自動車・家電という分野では日本には国際競争力がありますが、例えば住宅業界には十分な技術力があるにも関わらず、まだ海外に対して打って出ている状況ではありません。そのためには、海外のプレイヤーとも柔軟にアライアンスを組み、技術仕様を標準化するといった取り組みが必要ですね」

―― ガラパゴスからは脱却しなければグローバルな競争では生き残れません。スマートグリッドの推進は海外市場に対して競争力を持つような経済活動であると同時に、サスティナブルな社会を目指す取り組みでもあるわけですね。

福井 「サスティナビリティ(持続可能性)という言葉には、どこか、経済活動に対するアンチテーゼのようなニュアンスを感じてしまうことがあります。しかし、その重要な一角を占めるスマートグリッドは、次世代エネルギーの問題を具体的に解決できる可能性と、そこから生まれるイノベーションによって、新たな産業が生まれ、リーマンショックとそれに続く景気後退から立ち直るための、数少ないチャンスを創出する具体的な産業概念です。

 アメリカでは、オバマ・ニューディールと呼ばれる政策を通じて積極的な投資と雇用創出が始まっています。私たちもそこに乗り遅れず、着実に機会を捉える助けになればという願いを本書に込めたつもりです」

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福井エドワード

1968年、ブラジル・サンパウロ生まれ。幼少を米国シアトルで過ごす。1992年、東京大学法学部卒業後、建設省(当時)入省。1997年、イェール大学スクール・オブ・マネジメント卒MBA。アクセルパートナーズ(サンフランシスコ)、みずほ証券投資銀行グループを経て、2004年からプライベートエクイティ投資コンサルティング会社ルビーインベストメントリサーチ。現在、同社が設立した研究所「クリーングリーンリサーチジャパン」のマネジングディレクターを務める。

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