商用サービスが開始したWiMAX次の目標は都市圏インフラ
無線ブロードバンドといって忘れてはならないのがWiMAXだ。無線LANでは到達距離が100m程度とおもに屋内通信を想定しているのに対し、WiMAXは固定アクセスポイント間の通信距離が50km程度と非常に広範囲をカバーするのが特徴であり、いわゆるWMAN(Wireless Metro Area Network)を実現する技術である。当初は固定無線通信を利用してインフラ整備の難しい地域にブロードバンド通信を提供するものとして技術開発が進んでいた。その後ノートPCといった移動端末のサポートも視野に入れることで、携帯電話ネットワークに次ぐ、第2の無線ブロードバンド通信技術として注目を集めることになった。
このうちモバイル対応WiMAXは「IEEE802.16e」として標準化され、日本では2月にUQコミュニケーションズによって一部ユーザーを対象にした限定商用サービスが開始されている。標準化されていることもあり、インテルは自身のノートPCプラットフォーム「Centrino」に無線LANと同様にWiMAX通信をサポートするチップの内蔵を計画している。このモジュールを搭載したノートPCを他の地域へと持ち出すことで、たとえば米国や韓国など、先行してWiMAXサービスを提供しているエリアでそのまま同様のサービスを受けることが可能となる。
UQコミュニケーションズによれば、同社が提供するUQ WiMAXのサービスでは下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsの通信が可能だという。携帯電話の3Gネットワークの1つであるW-CDMAの高速データ通信規格「HSDPA」が、現行で下り7.2Mbps(将来的な最大データレートは14.4Mbps)であることを考えれば、その5~6倍と高速だ。こうした経緯もあり、次世代携帯電話ネットワークの本命技術の1つとして、4G規格にWiMAXを推すべく、周辺ベンダーを中心とした勢力がさまざまな動きを見せている。
その一環として提案されたのが「IEEE 802.16m」という規格で、WiMAX技術を使って都市圏を中心としたブロードバンド通信網を構築しようという試みだ。「Advanced Air Interface」の名称で呼ばれるこの技術では、固定/モバイルの両通信モードをサポートし、携帯電話ネットワークのようなインフラをWiMAXで構成する。
通信方式やインフラ構築方法が検討される一方で、速度面での正式な言及はなく、あくまでインフラ展開を主眼に置いた試みであることがわかる。だが4Gで競合するLTEへの対抗もあり、最大通信速度は1Gbpsオーバーを目指しているという話もある。国際通信規格団体であるITU-Rへの提案を想定しており、2009~2010年にかけて段階的なアクションを起こしていくことになるだろう(図2)。
4Gネットワークの本命LTEとその対抗規格たち
WiMAXとLTEという2つの規格が争う4Gでの覇権だが、結論からいってしまえば現時点でLTEが最終的な本命技術にもっとも近い(表3)。世界中の多くの携帯通信キャリアが、現行のGSMやHSPAといった技術の後継としてLTEの導入を検討しており、次世代の標準携帯ネットワークとなる可能性が高いからだ。すでにフィールド実験がスタートしており、2009年末から2010年には限定的ながら日米欧の各所でテストサービスが開始される見込みとなっている。今後数年をかけて段階的に商用サービスが開始されることになるはずだ。
LTEは現在世界標準となっているGSM方式の流れをくむ方式で、3GPPの中で規格が定義されている。GSMからW-CDMA、そしてLTEという系譜だ。一方で日米韓を中心に、2G携帯電話でCDMA技術を採用したネットワークインフラが存在する。2GのCDMA、3GのCDMA2000という形で規格が発展し、4G世代に向けてはUMB(Ultra Mobile Broadband)という規格を国際標準とすべく動いていた。UMBは3GPP2という規格団体で仕様策定やプロモーションが進められていたが、CDMA方式を採用する世界最大の携帯電話キャリアの1つである米ベライゾン・ワイヤレスがLTEの正式採用を発表し、日本のCDMAキャリアであるKDDIは中立の姿勢を示すなど、内部分裂が進行。こうした経緯からCDMA技術の開発者であり、中心ベンダーであった米クアルコムが2008年11月に規格からの撤退を発表するに至った。こうした経緯もあり、4GにおけるITM-Advancedの覇権争いは事実上LTEとWiMAXの2本に絞られた。
LTEでは802.11nやWiMAX同様、1チャネルを20MHzとするMIMOで高速通信を実現する。変調方式も前2者同様に下りにはOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)、上りにはSC-FDMA(Single Carrier-Frequency Division Multiple Access)を採用し、4×4のMIMOで370Mbps、2×2で170Mbpsの下りアクセスを実現する。携帯電話のネットワークとしては電波の利用効率が非常に高いのが特徴で、基地局あたりの収容可能ユーザー数は従来比10倍以上といわれている。高速通信を実現するとともに、投資効率が高いというのが携帯電話キャリアにとっての魅力のようだ。
前述のように携帯キャリアではLTE採用を表明するケースが多く、世界中の大手キャリアのほとんどが4GシステムとしてLTE採用を決定している。日本でもNTTドコモやソフトバンクモバイルがすでにLTE採用を表明してフィールド実験を開始しているほか、中立の立場を取っていたKDDIもUMBの国際標準化断念を受けてLTE採用を正式に発表した。
だがLTEの正式商用サービス開始は2011年または2012年以降の見込みとなるなど、本格的普及にはまだまだ時間が見込まれる。そのため、“つなぎ”的な意味合いを込めて現実的な解としてWiMAXサービスを展開するキャリアもある。先日WiMAXサービスを開始したUQコミュニケーションズが典型的な例で、同社はKDDIの子会社であり、KDDI本体ではLTEのインフラ整備を進めるとともに、ブロードバンド接続を必要とする恒常的なユーザー需要を取り込むべく別途サービスを提供する形態を採っている。
このほか、WiMAXを主要サービスとして展開するのは既存の携帯電話キャリアとは異なる独立系ベンダーであることも多いようだ。米国ではWiMAX専業ベンダーとしてクリアワイヤという企業が設立され、全米にWiMAXインフラ構築を進めている。米国では同国第3位の携帯キャリアであるスプリントがWiMAXサービスを展開していたが、投資効率を最大化するためにクリアワイヤとの提携を発表。最終的にはスプリントのWiMAX関連資産を同社へと売却することで、統一ブランド「Clear」によるWiMAXサービスを全米展開することで合意した。
なお、現在Clearは、Mobile WiMAXサービスを米オレゴン州ポートランドと米メリーランド州ボルチモアの2都市で先行展開している。
(次ページ、「まだまだある第3の無線ネットワーク規格」に続く)
この連載の記事
-
第5回
ネットワーク
3年後にはIPv4アドレスが枯渇? -
第4回
ネットワーク
ICANNの動向から見たドメイン名とDNS -
第3回
ソフトウェア・仮想化
Atom登場が追い風となるLinux -
第2回
ネットワーク
Windows7とServer 2008 R2でなにが変わる? -
第1回
サーバー・ストレージ
群雄割拠が続くサーバ仮想化の将来 -
ネットワーク
インフラ&ネット技術の今と未来 - この連載の一覧へ