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インフラ&ネット技術の今と未来 第6回

ギガビットを超え、次のレベルへ

ますます高速化する有線と無線の伝送技術

2009年11月30日 06時00分更新

文● 鈴木淳也

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まだまだある第3の無線ネットワーク規格

 異なる媒体でのパケット転送を定義するIEEE802には、EthernetのIEEE802.3のほか、無線LANのIEEE802.11、Bluetoothなどによる近距離ネットワーク(WPAN:Wireless Personal Area Network)を定義するIEEE802.15、WiMAXなどのWMANを定義するIEEE802.16などがある。だがこのほかにもさまざまな伝送方式の標準が検討されており、特に無線を使った通信に関しては「IEEE 802.20」「IEEE802.22」という規格が存在する(表4)。

表4 IEEE 802の主要なワーキンググループ一覧。無線関連のインフラ規格が最近になり増えていることがわかる

 IEEE802.20はMobile Broadband Wireless Access(MBWA)とも呼ばれ、その名の通りモバイル環境でのブロードバンド無線通信を実現することが目標だ。携帯電話のネットワークが音声通話を中心としたもので、あくまでデータ通信はインフラ活用方法の1つという位置付けなのに対し、IEEE802.20ではデータ通信のためのIPインフラを前提として定義している点で異なる。IEEE802.20では、1Mbps以上の通信速度を高速移動中(たとえば200km/h以上)でも実現し、ローミングや高速ハンドオーバーをサポートすること、3.5GHz以下の周波数帯を使用することが仕様として定義されている。データ通信前提のインフラということでWiMAXなどに類似する部分があるが、屋外での高速移動をサポートするという点で携帯ネットワークとWiMAXの中間に位置するような規格といえるかもしれない。現在は標準が承認されたばかりの段階であり、今後の展開はまだまだ未知数だ。

 もう一方のIEEE802.22はWireless Regional Area Network(WRAN)と呼ばれる規格で、「ホワイトスペース」と呼ばれる電波の空き帯域を使って地域のブロードバンド通信網を整備するのが狙いだ。

 米国におけるホワイトスペースとはTVの送信波であるUHF/VHFの空き領域である54~862MHz帯であり、この部分の空き領域をうまく活用して各地域ごとの無線ネットワーク環境(WRAN)を整備する。地域ごとに電波の活用状況は異なるため、デジタル化移行と合わせて効率化された帯域と組み合わせてネットワーク整備に利用するのがWRANの特徴となる。

 IEEE802.22では1つのベースステーション(BS)に複数の家庭/オフィス向け送受信装置(CPE)がぶら下がる形となり、いわゆるラストワンマイルを無線通信で実現するものとなる。TVの1チャンネルあたりの最大ビットレートは20Mbps程度で、伝送距離は30km以下とされ、WiMAXほどではないがある程度の通信帯域の確保が可能になる。用途としては携帯やWiMAXなどの無線通信網を補完する第3のネットワーク的な活用法のほか、地方でのインフラ整備などで利用が考えられる。

2009~2010年のネットワーク標準化と商用化の狭間で

 このように、今年から来年にかけて一気にネットワーク関連の新技術が市場に投入されることになりそうだ。金融危機によるIT投資抑制や消費減退傾向こそあれ、将来を見越した先行投資はつねに存在するため、ベンダーにとっては今後も段階的な需要が見込めるだろう。特にエンドユーザーにとっては新技術を投入したブロードバンド環境が近いうちに利用できることを意味しており、非常に楽しみでもある。

 こうした状況下でいつも出てくる問題が標準化と商用化のタイミングだ。相互接続性が重要なネットワーク機器にとって、ドラフトの内容がすべて盛り込まれた標準への準拠はもっとも効果的なセールスポイントとなる。一方で標準化を待つことで最終に近いドラフト登場から製品の市場投入まで半年から1年単位で遅れることになり、これが商機を逃す可能性にもつながる。こうしたなか、Ethernetや無線LANなどでは標準化に先行して製品を投入するケースが非常に多い

 また2010年夏に標準化が見込まれる40GbE/100GbEだが、ジュニパーネットワークスやエクストリームネットワークスなどのベンダーでは標準化に先行する形で対応製品投入を表明している。市場投入済みのルータやスイッチのバックプレーンはすでに40GbE/100GbEに耐えられるだけの容量を持っており、モジュールのリリースで新規格をサポートする形だ。最終のDraft 3.0がベースとなるため、最終版との仕様上の差異はほとんどないと思われるが、もしものケースではファームウェアの書き換えで対応する予定だとみられる。標準化まで製品をリリースしない最大手のシスコシステムズとの違いは、こうしたビジネスチャンスの捉え方の差に表われているといえる。

 規格の標準化までには長い年月が必要となることもあり、必ずしも適時ユーザーのニーズをキャッチアップできるとは限らない。標準化団体やベンダー各社もこのことを理解しており、完全な標準化の前にドラフト版の仕様をベースにした段階的な製品リリースを行なうケースが最近ではよく見られる。

 たとえば無線LANセキュリティ規格のIEEE802.11iでは、WPA、WPA2と2段階に渡る実装を行なってきた。技術の進歩は日進月歩であり、最近では新技術のテストや早期の普及を図るためにかなり早い段階で積極的に市場に投入されるケースが多い。こうした傾向は、今後より顕著になってくるのかもしれない。

筆者紹介:鈴木淳也(すずき じゅんや)


サンフランシスコを拠点にIT関連の話題を追いかけるフリーランスジャーナリスト。情報サイト@IT(現ITmedia)の立ち上げに参画、2002年に独立して現在に至る。


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