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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第9回

CyrixとWinChipを買ってCPU市場に乗り出したVIA

2009年07月13日 16時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/)

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Cyrixは消滅 低コストのCentaurがVIAのCPUに

 さてここからのVIAであるが、先述のとおり旧Cyrix系の資産はすべて償却してしまった一方で、Centaurのチームは引き続き残したままとしておき、ここが2000年6月に「Samuel 1」というコアの製品を「CyrixIII」というブランドで発売開始する。こちらは開発が途中だったW4のコアをベースとした製品だ。Socket 370への対応や、ファウンダリーを台湾TSMC社に移しての製造など、いろいろやるべき事は多かったと想像されるだけに、よく短期間で量産に移せた、と感心せざるをえない。

“Cyrix”の名を冠した最後のCPU「VIA CyrixIII」

“Cyrix”の名を冠した最後のCPU「VIA CyrixIII」

 このCyrixIIIは、1次キャッシュは命令/データ各64KBとW3に近いものだが、2次キャッシュは搭載していない。動作周波数も当初は533~677MHzのみだったが、それでも最大で19.3Wと発熱をかなり低めに抑えることに成功する。その後はラインナップを増やすと共に、モバイル向けに低消費電力版をリリースするなど、とりあえずVIAの第1世代プロセッサーとしてのポジションを固めるには十分な性能とバリエーションを提供できた。

 上にも書いたとおり、もともとVIAはインテルやAMD向けの互換チップセットの製造・販売を主たるビジネスとしていたが、バスライセンスを巡ってのインテルとの訴訟問題や、インテルが煩雑にバスやパッケージを変えた製品を投入することへの対策などもあって、自社でプロセッサーを持つ必要性があった。また、当時はそれが後のメインビジネスとなるとは思わなかっただろうが、組み込み向けというインテルやAMDが手薄なマーケットに関心を持っていた。そこで以下のような2本柱の戦略を立てていたようだ。

  • パソコン向けには「CyrixベースのCPU+VIAの互換チップセット」を提供して、CeleronやDuronなどバリュー市場向けのシェアを握る。
  • 組み込み向けには「CentaurベースのCPU+VIAの互換チップセット」でソリューションを展開する。

 その傍証は、最初の製品に「VIA Cyrix III」というブランド名をつけたことだ。パソコン向けに一定のブランド力がある“Cyrix”という名前を残すことで、シェアを維持しようと目論んだ雰囲気が強い。しかし、予想に反してCyrixというブランドは、すでにそれほど強力なものでなかった。MIIの世代でなかなか動作周波数が上がらず、当然性能は低め。しかも消費電力も高いとあって、バリュー向けの中でも一番低価格の製品にしか使われないという状況になっており、これはJoshuaでも殆ど変わらなかった。

 また当時のCyrixのロードマップでは、Cayenne・Jalapeno共に従来のチップセットが使えない構造(メモリーコントローラーやグラフィックス機能を統合するので、ノースブリッジが不要)だったから、これはVIAの当時のビジネスとまったく相容れない。対するCentaurは、絶対性能こそ低いものの消費電力が十分に低くて組み込み向けにすぐ使えるし、生産コストも十分に低い。例えばSamuel 1のダイサイズは75mm2であり、これに続くSamuel 2以降は50mm2台を維持した。

 次回説明するが、現実問題としてSamuel 1/2はダイサイズの下限に近いうえ、将来のロードマップもあって、引き続きチップセットを必要とするあたりは、VIAのビジネスと親和性の高いものだった(Cyrixと異なり、ノースブリッジ機能を統合するCPUの予定はなかった)。その結果として、「VIAのCPUはCentaurで統一しよう」という判断になったと思われる。結局、VIA Cyrix IIIというブランドが使われたのはこの第一世代のみ。この後はVIA C3という名称に変わる事になった。

今回のまとめ

・VIAのCPU事業は、CyrixとCentaurのCPU事業を買収して始まった。

・Cyrixの資産はVIAのビジネスプランに合わず、ブランド価値も落ちていたため消滅。低消費電力とコストパフォーマンスに長けたCentaurのCPUのみが残った。

・Cyrix系列CPU M1=0.65~0.35μm世代のSocket 5/7互換CPU「6x86」、M2=MMXに対応した0.35~0.25μm世代のSocket 7互換CPU「6x86MX」「MII」

Gobi/Joshua=2次キャッシュを内蔵した0.18μm世代のSocket 370互換CPU、製品化されず、Cayenne/Jalapeno=CPUにグラフィックス機能やメモリーコントローラーを内蔵したSoC、製品化されず

・IDT/Centaur系列CPU C6=0.35μm世代のSocket 7互換CPU「WinChip C6」、C6+=MMX強化の改良型、0.35~0.25μm世代「WinChip 2」「同2A」、W2B/W3=低消費電力化・性能向上の改良型、0.25μm世代「WinChip 2B」「同3」

W4=パイプライン構造を見直した高性能版、製品化されず、Samuel=W4の改良版、0.18μm世代「VIA Cyrix III」

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