Ethernetの礎を作ったDIX連合
Ethernetを汎用LAN規格として普及させるために、ゼロックスはDECとインテルを巻き込んだ。そうしてできた規格は、DEC、インテル、ゼロックスの3つの企業の頭文字を取って「DIX」と呼ばれた。
DECは、自社のミニコンVAXで手軽にLANが利用できるメリットがあった。インテルは、半導体チップの販路拡大が見込めるメリットがあった。ゼロックスは、レーザープリンタを売りたかった。なぜか、肝心のAltoを販売する気はなかったようで、お陰でAltoと競合するLisaやMacintoshを持つアップルは命拾いした。もっとも、レーザープリンタをネットワークで共有するというビジネスは、ゼロックスに十分な利益をもたらしたようだ。
こうして1980年に3社共同でEthernetバージョン1を発表した。Alto専用LAN時代には2.94Mbpsだったのが、このときに10Mbpsまで高速化された。1982年にはバージョン2(通称Ethernet II)を発表し、ここに現在まで続くEthernetが誕生する。
なお、Ethernetを普及させるため、ゼロックスは特許を格安で解放した。日本では富士ゼロックスが窓口となり、たった10万円で特許を開放する。このオープン戦略は、当時としては珍しいものだったが、功を奏したのはいうまでもない。
このオープン戦略の次の段階が、IEEEによる標準化だ。米国における標準規格といえばANSI(American National Standards Institute)、世界における標準規格といえばISO(International Organization for Standardization)と決まっているのだが、あえてIEEEを選んだところが、Ethernetの先見の明といえよう。当時、業界では新興勢力だったDIX3社にとって、官僚的で旧態依然としたANSIよりは、第一線の研究者や技術者が中心のIEEEのほうが、魅力的だったようだ。以後、DIXの手を離れたEthernetは、IEEE802.3として世界標準へと歩んでいった。
Ethernet規格を策定するIEEE802委員会
Ethernetといえば「IEEE802.3」を連想する読者も多いと思う。そもそも「IEEE」とは何か。これは「アイ・トリプル・イー」と発音し、正式名称はthe Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.だ。日本語では電気電子学会と訳される。
さて、このIEEEの活動は多岐に渡っているが、もっとも有名なのが各種規格の策定だ。身近なものとしては、たとえばビデオカメラなどの接続端子規格IEEE1394(FireWire、i.LINK)がある。
このように、各種規格を数字で表記するのだが、正確には委員会に割り当てた番号で、その委員会活動の成果の1つが規格だ。そして、ネットワーク関連の委員会には「802」という番号を割り当てている。さらに、小数点以下の数字で、分科会を設け、より専門分野について議論する(表2)。
ちなみに、「802」は委員会発足の1980年2月に由来するという説があるが、どうやら単なる都市伝説のようだ。たまたま空いていた番号だったというのが真相である。
さて、具体的な標準化作業は下部組織であるIEEE-SA(Standards Association)が行なっている。したがって、現在では学術論文の発表など学会本来の活動と標準化作業を分離している。また、各テーマ別にワーキンググループやタスクグループなどの下部組織を設け、より細分化した活動を行なうようになった。
(次ページ、「有線LANを規定するIEEE802.3」に続く)
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