緊張感あふれるプレーヤーの気持ちとは対照的に、メルヘンでほんわかな主人公のいでたち。 (C)1986,2004 HUDSONSOFT |
約1200タイトルものソフトが発売されたというファミコン。『ゼビウス』(ナムコ)のようにアーケードのヒット作を移植して大ヒットしたものや、『ドラゴンクエスト』(エニックス、現スクウェア・エニックス)のように発売当時の“新ジャンル”に果敢にチャレンジして、今なお続く超人気シリーズとなったタイトルもある。しかし、大ヒットして日の目を見るのはごく一部のタイトルだけで、ほとんどのタイトルは、ファミコンの枠から飛び出すことなく、静かにひっそりと消えゆく運命だったのだ(濃いファンの間で語り継がれることはあっても)。そんなあまり目立つことのなかったタイトルの中にも、実はゲームとして完成度の高いタイトルが埋もれている。その隠れた名作のひとつ、ハドソンが1986年11月に発売した『迷宮組曲』を今回は紹介しよう。
舞台となるお城。ゲームの舞台は、この場内だ! | ハドソンの看板キャラのハチベエも隠しキャラで登場 |
『迷宮組曲』は、音楽を心から愛している人々の星“エプシロン”を舞台にした、RPG要素を持つアクションゲームだ。突如、魔人が現われて王女エルシラを幽閉し、同時に世界中のあらゆる楽器をも封印してしまう。主人公の“ミロン”は、姫と音楽をこの世界に取り戻すため立ち上がる。“姫を救う”という大義を背負いながらも、主人公ミロンの風貌はピエロのような有様で、武器といえば長老から授かった“シャボン”だけ、と貧弱そのもの。ゲームの舞台は西洋の城をモチーフにしており、雰囲気は全体的にメルヘンチックなのだ。
しかし、そんなメルヘンメルヘンしたグラフィックスとは裏腹に、難易度はかな~り高い。敵の弾は壁をすり抜けて飛んでくるわ、敵によっては壁を無視して体当たりしてくるわで、アクションファンでも手をこまねく難易度と言える。しかもこのゲーム、クリアーするまで数時間かかるような長いステージ構成でありながら、ゲーム途中でセーブができない時代のソフトで、電源を切るとイチからやり直しという過酷なシステム。プレーヤーを容赦なく諦めの谷底に落とす、そんな難しさだった。正直クリアーするには、かなりの根気が必要だと言える。しかし、その“鬼”難度にも勝るゲーム的“魅力”が、この迷宮組曲にはある。
隠し部屋を見つけてアイテムを手に入れよう |
例えば、ゲーム画面を一見しただけでは、上下左右にやたらと広いマップを持つ“単なるアクションゲーム”にも思えるのだが、実は各所に謎がちりばめられている。何もないと思った場所にショットを当てるとアイテムショップに通じる道が出現したり、どうしても先に行けない場所が、実はアイテムや隠し通路を必要であったり、特定の条件を満たすとボスが登場するようになったりと、隠された仕掛けが多いこと多いこと。これらの“仕掛け”、プレイ当初は「いったい全体、どうすればいいの?」というレベルに思えるのだが、プレーヤー自身が経験を重ねていくことで、「もしかして、こうればいいんじゃないか?」に変化し、最後は「よし分かった」「はは~ん読めたぞ」となって、気持ちいいタイミングで謎がするする解けていく。節目節目をズバっとクリアーしていく達成感は、複雑に絡み合った謎(=迷宮)がひとつの形(=組曲)になっていくようで、すなわち“タイトルどおり”のゲーム展開を味わわせてくれるというわけだ。
うわさの“ボーナスステージ”。最初は、ドラムのリズムしか刻まれていない。 |
そして、その爽快な達成感を音でも演出してくれるのが、ボーナスステージの存在。最初はドラムしかないシンプルなボーナスステージの曲が、面を進めていくごとに奏でる楽器が増えて、最後は美しい音色を響かせてくれるのだ。
考えみると、この『迷宮組曲』の楽しさは、自分が楽器を奏でる面白さに通じるものがあるのかもしれない。始めは音さえ満足に出なかったのに、練習を重ね、やがてほかの楽器とシンフォニーを奏でたときの手応えと開放感。そんな気持ちよさが相通じるように思えてくるのだ。初めてのプレイなら多少根気を必要とするだろうが、ゲーム本来の楽しさ、自分がゲームを上達する階段を一足飛びで駆けるような快感を味わいたい人は、「なつゲー」でぜひ『迷宮組曲』をプレイしてみてほしい。難解さの向こうにある達成感を得て、「やっぱ、ゲームって楽しい!」というあの頃の気持ちがよみがえるはずだ。