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MSTC、人間協調・共存型ロボットの研究プロジェクトのプラットフォームを公開

2000年04月07日 00時00分更新

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(財)製造科学技術センター(MSTC)は5日、茨城県つくば市の通産省工業技術院・機械技術研究所において“人間協調・共存型ロボットシステムの研究開発”に関する発表を行なった。このプロジェクトは日本が得意とするロボット分野での優位性をさらに高めるために通産省主導のもと官民共同で行なわれているもの。5年計画で約50億円の予算が用意されている。

プロジェクトリーダーを務める東大の井上教授とサブリーダーの舘教授らが会見でプロジェクトの概要を説明した
プロジェクトリーダーを務める東大の井上教授とサブリーダーの舘教授らが会見でプロジェクトの概要を説明した



プロジェクト自体は、人間と同じ生活空間において人間と協調・共存して作業を行なうことができるロボットやシステムの開発を目的として平成10年(1998年)にスタート、これまでの2年間で研究の基礎となるプラットフォームの開発を行なってきた。この日の発表はそのプラットフォーム群に関するもの。今後3年間これらのプラットフォームを使って、プラント保守や対人サービス、エンターテイメント分野などさまざまな方向からの応用研究を行なっていく予定になっている。なおこのプロジェクトは“HRP(Humanoid Robotics Project)”とも呼ばれる。

P3をベースにしたプラットフォームは階段から降りて歩行、ケースから缶ジュースをマニピュレーターで取り出してカートにいれて押すというパフォーマンスを行なった。操作はスーパーコックピットから行なわれた
P3をベースにしたプラットフォームは階段から降りて歩行、ケースから缶ジュースをマニピュレーターで取り出してカートにいれて押すというパフォーマンスを行なった。操作はスーパーコックピットから行なわれた



この日公開されたのは、実際に動かすことになる“ロボットプラットフォーム”、ロボットを操作する手段としての“遠隔操作プラットフォーム”、ロボットを動かすためのソフトウェア開発やシミュレーションを行なう“仮想ロボットプラットフォーム”の3群。ロボットプラットフォームは、本田技研工業が開発した二足歩行型ロボット『P3』をモディファイしたものを3体用意。身長は160センチ、体重は約99キログラム(バッテリー除く)というサイズで、性能はほぼP3と同じものだという。これにセンサーやカメラなどさまざまな機器を付加することで、視聴覚情報の伝達能力を向上させ、実験に活かしていくという。

実験機体は各種機器を装備、安定のためにクレーンで支えられながら移動した
実験機体は各種機器を装備、安定のためにクレーンで支えられながら移動した



スーパーコックピットとシンクロしたマニピュレーターを使ってドアを開けて商品を取り出す
スーパーコックピットとシンクロしたマニピュレーターを使ってドアを開けて商品を取り出す



商品をケースに入れてカートを押す。移動は音声コマンドのほか、位置と距離をポイントして行なわれる
商品をケースに入れてカートを押す。移動は音声コマンドのほか、位置と距離をポイントして行なわれる



頭部にはロボット自身が内蔵するステレオカメラのほか、計8つのCCDカメラで広い視野角を確保。上に見えているのは全方位マイク
頭部にはロボット自身が内蔵するステレオカメラのほか、計8つのCCDカメラで広い視野角を確保。上に見えているのは全方位マイク



スーパーコックピット。オペレーターは両手をマニピュレーター用にホールド。ロボットの頭部とシンクロする3次元ゴーグルを装着する。お尻の部分には、ロボットの上下動などの動きがフォースフィードバックされる
スーパーコックピット。オペレーターは両手をマニピュレーター用にホールド。ロボットの頭部とシンクロする3次元ゴーグルを装着する。お尻の部分には、ロボットの上下動などの動きがフォースフィードバックされる



マニピュレーターを操作中。ゴーグルをかけ両手で操作している。ディスプレイの像が二重になっているのは3次元映像のため
マニピュレーターを操作中。ゴーグルをかけ両手で操作している。ディスプレイの像が二重になっているのは3次元映像のため



スーパーコックピットを後ろからみたところ。ロボットの視点で7面、データ表示に2面のディスプレイが使われている
スーパーコックピットを後ろからみたところ。ロボットの視点で7面、データ表示に2面のディスプレイが使われている



ロボットに対して遠隔操作を行なうプラットフォームとして『スーパーコックピット』と呼ばれるシステムが開発された。水平視野角150度、垂直視野角117度をカバーする9面の大型スクリーンを持ち、音声と映像の立体再生が可能、ロボットのマニピュレーターとシンクロしているマスターアームを装備し(マスターアームを動かすとロボットの腕が連動して動く)、ロボットの動きをフォースフィードバックするシステムも備える。オペレーターは、コックピット内に立ってロボットに指示を行なう。移動に関しては3次元マウスを使って方向や距離を指示するほか、音声認識装置も装備する。また、マニピュレーター部分だけを遠隔操作する『ミニマムコックピット』も試作されている。ちなみに遠隔操作プラットフォームの開発には、松下電工(株)、川崎重工(株)、ファナック(株)、東京大学らがそれぞれの得意分野で関与している。

こちらは3次元ゴーグルとマニピュレーター操作用のグローブだけで構成されるミニマムコックピット。手前の球体はグローブの位置を検出するための磁気を放射するもの
こちらは3次元ゴーグルとマニピュレーター操作用のグローブだけで構成されるミニマムコックピット。手前の球体はグローブの位置を検出するための磁気を放射するもの



ミニマムコックピットで操作される4指のマニピュレーター。5本指での操作を4本指に変換するアルゴリズムを採用している
ミニマムコックピットで操作される4指のマニピュレーター。5本指での操作を4本指に変換するアルゴリズムを採用している



仮想ロボットプラットフォームでは3次元グラフィックスを使ってシミュレーションの結果を表示する仕組みも開発された
仮想ロボットプラットフォームでは3次元グラフィックスを使ってシミュレーションの結果を表示する仕組みも開発された



仮想ロボットプラットフォームの検証に使われる小型ロボット。身長54センチ、重さ8キログラム。各種センサーやモーターの制御をUSB経由で行なっている
仮想ロボットプラットフォームの検証に使われる小型ロボット。身長54センチ、重さ8キログラム。各種センサーやモーターの制御をUSB経由で行なっている



仮想ロボットプラットフォームは、実際にロボットを動かすときに必要になるファームウェアやライブラリーなどのソフトウェアを開発するためのもの。グラフィックスサーバーやPCを使用する。たとえば実際のロボットは高価(約1億円)なのでこれを転倒させるような実験はできないが、それをシミュレーター上で実行したり、特定の動きをさせるときにセンサーやモーターをどう動かせばいいかなどの実験を行なう。将来はフリーウェア的な扱いにして、広く研究に応用できる仕組みを整える模様だ。また、シミュレーターの結果を3体のプラットフォーム以外で確認できるよう、身長54センチの小型の二足歩行型ロボットも開発された。内蔵するモーターやセンサー群をUSBで接続しているため、拡張や差し替えが容易にできるようになっている。この分野では電子技術総合研究所や機械技術研究所、東大、早稲田大学、富士通、日立製作所らが関わっている。

二足歩行する様子。リアルタイムのデータがUSB経由で手前のパソコンに入ってくる
二足歩行する様子。リアルタイムのデータがUSB経由で手前のパソコンに入ってくる



今後これらのプラットフォームを使ってさまざまな実験や研究が行なわれる予定で、その一部は今後一般からも公募される模様だ。プロジェクトリーダーを務める東京大学大学院の井上博允教授は会見で「人間型ロボットの研究はまだ始まったばかり。役に立つかどうかの結論を性急に出すのではなく、20年くらいの単位でものを見てほしい」と話した。

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