Bluetoothが想定しているデバイス間通信は、いわゆるPAN(Personal Area Network)の需要に応えるものである。Bluetoothでは、たとえば携帯電話からテレビを操作したり、デジタルカメラからのデータをプリンタで直接印刷したり、MP3データをコンパクトフラッシュなどのメディアに伝送したりといったことが実現する。あるいはカバンの中に携帯電話を入れたままパソコンとスケジュールやアドレス帳を同期させたり、ヘッドセットから携帯電話を経由し、電話を行なったりと利用方法はアプリケーションによって無限に広がると言える(図1~4)。
Bluetoothの利用例 図1 |
Bluetoothの利用例 図2 |
Bluetoothの利用例 図3 |
Bluetoothの利用例 図4 |
そして、このBluetoothの構想が昨今のデジタル家電の波にちょうど適合した。つまり、今後はパソコンだけがデータネットワークを担うのではなく、今までネットワークとは無関係だった家電やパソコンとの接続を前提とした周辺機器などが同じネットワークに参加してくるからだ。パソコンは参加者ではあるが主人公ではない、というホームネットワークの需要が、結果的にBluetoothの採用を一気に後押しする形になった。こうして携帯電話とパソコンが主体だったBluetoothが、次世代ホームネットワークの通信インフラとしてにわかにおどり出てきたのである。
現在Bluetoothは、会社で、屋外で、家庭内で、場所を選ばず利用できる無線インターフェイスとして注目されている。パソコンを中心にした無線インターフェイスの仕様としては赤外線を使うIrDA(※4)と無線Ethernetの標準仕様であるIEEE802.11(※5)、そしてHomeRFのSWAPなど挙げられる(表1)。
表1 2.4GHz帯域の無線通信方式
最大データ伝送速度 | 変調方式 | 最大伝送範囲 | アクセス制御 | |
---|---|---|---|---|
Bluetooth | 1Mbps | FHSS | 10m/100m | なし |
IEEE802.11 | 2Mbps | DSSS、FHSS | 100m | CSMA/CD |
IEEE802.11b | 11Mbps | DSSS、FHSS | 30m | CSMA.CD |
HomeRF(SWAP) | 0.8/1.6Mbps | FHSS | 50m | CSMA/CD、TDMA |
いずれも比較的近距離でデバイス同士が通信するための無線ネットワーク仕様であり、Bluetoothと競合することになる。しかし、なぜBluetoothがこのように多くのメーカーの支持を集めたのだろうか? 当然、競合仕様や過去の通信インターフェイスに比べ優れた特徴を持っているが故である。ここからはBluetoothの技術概要を他の仕様との比較も交えて解説していきたい。
※4 IrDA(Infrared-Data-Association)……1993年に結成された赤外線データ通信の標準化団体、あるいはその通信規約を指すことも多い。物理層、リンク管理やトランスポート制御を行なうデータリンク層のほか、RS-232Cエミュレーションを行なう「IrCOMM」、静止画転送の「IrTran-P」、電話帳やスケジュールなどのデータ交換を行なう「Ir-OBEX」などにアプリケーション層などの一連のプロトコルスタックにより構成されている。伝送速度は115.2kbps、4Mbps、16Mbps。ワイヤレスのデータ伝送方式の本命として、ノートPC、PDA、プリンタ、家電用リモコン、POS端末などに幅広く搭載されている。※5 IEEE802.11……IEEEに標準仕様として勧告された2.4GHz帯域の無線LAN仕様。変調方式の違いによって、1ダイレクトシーケンススペクトラム拡散(DSSS)方式、周波数ホッピングスペクトラム拡散(FHSS)方式、3赤外線方式(IR)の3仕様が勧告されている。1999年11月にはIEEE802.11bが正式勧告され、11Mbpsの高速な無線LANが実現することになった。Apple Computerの「iBook」に搭載されている「AirPort」はこの方式を利用したもので、Lucent Technologies、3COM、AlliedTelesisなどが続々と対応製品を出荷する。