「一線」を超える人は取り締まるしかない
── ウェブサービスの仕組みやインターフェースで誹謗中傷を抑制することはできないんでしょうか?
津田 誹謗中傷が起こること自体は、どうしようもないでしょう。監視体制を強化したり、インターフェースを改良するなどで一時的に減らすことは可能かもしれませんが、それは対症療法にしかならない。
誹謗中傷の投稿者には、相手の反応が面白いからという愉快犯もいるだろうし、噂を信じて真実性を検証せずに「あの社会悪を野放しにしてはおけない」と正義感に基づいて書き込みをしている人もいる。非難した相手がその文章をネットで見る可能性を想像できずに、カジュアルに露悪的な言葉を使う人もいます。
何をしたら誹謗中傷で捕まるのか、表現の自由はどこまで守られるのか──。それは一朝一夕に解答が出るものではありません。だからこそ、民間の当事者同士で解決できる「ADR」(裁判外紛争処理機関)的な場が求められていると思います。
先日発足した「安心ネットづくり」促進協議会や、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)などが発展して、そうした機能を持つようになり、民間レベルで解決できるようになればそれに越したことはないと思いますが……。
── この流れでは、法規制の強化も見えてきそうです。
津田 表現の自由やメディアのあり方など、センシティブな要素をたくさん抱えている問題だからこそ、安易な規制よりも先にやるべきことがあると僕は思います。
そもそも今回の事件のように、現行法でも摘発することは可能なわけですから、ネットの言論だけ特別に立法する必要があるのかという話もある。むしろ、誹謗中傷が起こった際の情報開示プロセスをどうするのかというところを議論した方が建設的だと思います。
法規制を強めたところで、誹謗中傷を完全になくすことは不可能でしょう。人生に絶望して自暴自棄になっているような人の行為と、単にリテラシー不足でうっかりおかしな書き込みをしてしまった人が同一の基準で罰せられるのも不幸な事態だと思います。
もちろんどこかに「一線」は引く必要がある。その線を越えようとする人は、今回のように取り締まっていくしかないんでしょうね。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。
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