実はどのベンダーでも4万円で出せた
この市場に3万9800円という価格をひっさげて登場したのが、メルコのLSW10/100-8だ。8ポート20万円が一般的だった当時、1/5の4万円弱で購入できるスイッチングハブは強烈なインパクトがあった。
この価格を実現できた背景には、高い集積密度とコストパフォーマンスを実現するチップの登場がある。しかし、メルコだけがこっそり宝の石を発見したわけではなかった。製品の担当者であった富山強氏は「チップのコストは当時かなり下落していたため、そもそもスイッチングハブを19万8000円で売る必要はなかったんです。単に価格が『高止まり』しているだけで、実はどのベンダーでもこの価格で出せたと思います」とその内幕を語ってくれた。
価格が高止まりしていたのはなぜか。1990年代、ネットワークとは専門の知識と技術を持ったエンジニアが構築するもので、利用するスイッチなどの機材も高くて当然という風潮があった。しかし、TCP/IPに標準対応したWindows 95が登場し、オープンな技術を用いたEthernetの製品を多くのベンダーが開発するようになると、こうした考え方は時代に合わなくなってきた。誰でも簡単にネットワークを構築できる時代の到来を見越して、「マスに普及させる」ことを目的に手に入れやすい価格で投入されたのが、このLSW10/100-8だったのだ。
重要なのは、スイッチング速度やフロー制御、MACアドレスの学習件数なども含め、スペック的な妥協が一切なかった点である。10/100Mbpsを自動認識するオートネゴシエーション対応のポートを8つ搭載し、転送方式もフレームのエラーを検出するストア&フォワード方式を採用。20万円の製品と比べて、まったく差のないスペックを4万円で実現してしまったのである。
また、通信モードを手動で設定できる「ディップスイッチ」を背面に設置したモデルを出した点にも注目したい。富山氏は「開発委託しているメーカーは、『オートネゴシエーションがあるんだから、ディップスイッチなんかいらないだろう』といっていたんですが、無理をいって付けてもらいました。というのも、当時は10Mbps、100Mbps、全二重、半二重などの通信モードの違いで、うまく通信できない場合もけっこうあったんです」というこだわりがあったのだ。
スイッチの低価格化が100Mbpsへの移行を促進
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