歴史を変えたネットワーク機器として、今回紹介するのは、ブロードバンド時代の初頭にVPNルータの定番機となったヤマハの「RTX1000」である。コンパクトで使いやすいヤマハのルータは、SOHO市場で絶大な人気を誇った。その製品作りに迫る。
DIYなユーザーに支えられたヤマハルータ
ヤマハが通信機器事業を立ち上げたのは、電子楽器で培ったDSPの技術を活かし、アナログ回線用のモデムLSIを開発したのがきっかけとなっている。ITに関わっていない人から見ると、楽器メーカーのヤマハが通信機器を作っていることに違和感を覚えるかもしれない。なにを隠そう筆者もその1人であった。しかし、同社は音楽関係以外にも、幅広い領域に事業を拡大しており、通信機器もその一角というわけだ。
そして、1989年にISDN LSIを開発し、1995年にはISDN-TAを内蔵した記念すべきルータ第1弾「RT100i」を市場に投入した。
RT100iは高価で難しいという既存のルータのイメージを覆す価格と、シンプルなコマンドラインインターフェイスで多くのファンを作った。開発や商品企画など、さまざまな立場でヤマハルータを世に送り出してきた平野尚志氏は「DIY(Do It Yourself)でルータを使い倒したいRTのユーザーと、ものづくりに情熱をかけた開発者が、メーリングリストによって緊密に情報交換する環境がすでにできていました」と当時を語っている。
その後、企業向けのモデルのほか、個人・SOHO ユーザーを想定したオールインワンモデル「NetVolante」シリーズも展開された。立方体でピアノのような鏡面仕上げを施した「RTA50i」や1:4:9という比率のモノリス型の筐体を採用した「RTA54i」など、デザイン的に優れた製品も多かった。
さらに、IPv6やダイナミックDNSと連携するIP電話機能の搭載など、先進的な試みを次々と導入。こうして、ヤマハは特にSOHOや個人向けルータのベンダーとして国内で確固たる地位を築いた。
そして、低価格で高速なADSLサービスのスタートを機にブロードバンド時代が到来。これに対応して、ヤマハが2002 年に投入したVPNルータが「RTX1000」である。
次ページ、「時代が求めた高スループットルータへの脱却」へ続く

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