ポジティブなクチコミを集めて情報格差を埋める病院情報サイト
QLife(http://www.qlife.jp/)
2008年09月05日 12時00分更新
月刊アスキー 2008年8月号掲載記事
病院についてのクチコミサイトは、グルメや映画と同様に歴史が古く、複数のサイトが存在する。そんな中で急成長してきたのがQLife(キューライフ)だ。クチコミは審査制で、ネガティブなコメントはすべて排除するなど、どちらかと言えば保守的なスタイルにもかかわらず、成長できた理由はどこにあるのだろうか?
同社の創業社長である山内善行氏は'65年生まれ。大学卒業後はアメリカに渡り、都市計画のコンサルティングをやっていた。ネットもクチコミも医療も元々は専門外だ。そのアメリカでダイレクトマーケティングのノウハウに触れて衝撃を受け、帰国後にメールマーケティングやブログマーケティングの会社(株式会社カレン)を興して成功を収めている。
ところが、ずっと企業からの受託で仕事をしてきた山内氏は「自社が事業主になるビジネスモデルをやりたい」という想いを強く抱くようになる。そこで参入分野をいくつか検討したのちに、医療分野の情報流通を手がけようと考えた。
以前も媒体ビジネスに何度か挑戦したが長続きせずに撤退した。媒体事業が得意でないことがわかっているからこそ、大きな市場規模(約30兆円)があり試行錯誤の余地がありそうな医療分野を選んだ。「ゴルフでたとえるならば、フェアウェイが広くてOBになりにくい。途中でバンカーにつかまっても、長期的に目指す方向を間違わず、真面目に意味のあることをやり続ければ、必ずビジネスになると 判断した」。
ポジティブなクチコミだからこそ人が集まる
サイトを構築するにあたって、山内氏は医療分野のクチコミを徹底的に調べた。先行するクチコミサイトの運営者に話を聞いたり、医療関係者のヒアリングをしたり、「クチコミとは何か、医療とは何か」を何度も自問した末に、ポジティブコメントだけを収集することに決断する。投稿されたコメントは内部の二重チェックを通ったものだけが掲載される。
即時性や自由性を重視する傾向が強い最近のクチコミサイトの流れに逆行する判断だがこれが成功した。ポジもネガも両方扱うクチコミサイトより、多くの読者が集まった。「ドクターはまだしも、生活者がこんなに我々の方針を支持してくれるとは思わなかった」。ネガを見たいとの声もあるが、医療というテーマの特殊性を具体的に説明すると納得するという。
ただし、良質コメントを集めるのに苦心した。クチコミサイトは最初の核になるクチコミが、後から集まるクチコミの質を決定づけることが多い。しかし「病院の評判を書いた文章なんてみんな見たことないから筆が進まないんですね。プライバシーや専門用語の扱いにも迷ってしまう」。
そこで知り合いを総動員して病院の体験談を集め、最初はインタビューをしながらコメントにまとめたものを掲載した。具体的な“お手本”を見れば、自分でも書けるようになる。入力フォームでさまざまな工夫もした。その結果、現在は約5万件のクチコミがあるが、1000文字近いものも珍しくない。暗くなりがちな医療の話題だけに、明るく前向きなサイトにすることを大事にしている。
クチコミ収集が軌道に乗ったある日、気がついたという。「QLifeに集まっているのは単なる情報ではなく、医師や病院に対する感謝や感動なんです。普段は“ありがとうございました”と、とおり一遍にしか言わない。でも人はその奥にいろんな気持ちを持っている」。そこに感動があるから共感を呼び、さらにクチコミと読者を増やす循環ができているのだ。
この連載の記事
-
第7回
デジタル
面白法人カヤック(http://www.kayac.com/) -
第6回
デジタル
BuyMa(http://www.buyma.com/) -
第4回
デジタル
食べログ.com(http://tabelog.com/) -
第3回
デジタル
ECナビ(http://ecnavi.jp/) -
第2回
デジタル
関心空間(http://www.kanshin.com/) -
第1回
デジタル
e燃費(http://e-nenpi.com/) - この連載の一覧へ