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塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第11回

塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”

前進を続けるカルチャー

2008年08月03日 15時00分更新

文● 塩澤一洋 イラスト●たかぎ*のぶこ

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 灯火に着目してこの仕組みを考えると、「赤が見えたらその船を避けろ」「緑が見えたら直進」と、まさに信号と同様に理解できる。しかし、それはルールの本質ではない。灯火を表示する義務のない昼間でもこの航法は共通だし、そもそも灯火や信号が発明される前から、衝突を回避するために優先度を決めるルールはあった。

 赤緑の灯火は、交差する二者に関してもともと定められているルールを色の信号によってさらに明確にするための仕組みにすぎない。ルールは信号以前に存在するのである。

 この横切り船ルールの基礎は「右側通行」のルールだ。2隻の船舶が真向かいに行き会う場合、右側によけるのが鉄則。海上衝突予防法にも規定がある。その行き会う両船舶の針路がなす角度を狭くしていくと、横切り船ルールが「右側通行」ルールの延長であることがわかる。ルールは全体としてひとつの体系をなしているのだ。

 陸上では、1868年にロンドンで世界最初の信号機が設置されて以来、赤は「STOP」、緑(地域によっては青や白)は「GO」ないし「進んでもよい」を表す。米国に初めて赤緑2色の電気式交通信号が設置されたのは1914年。'20年には三色式が導入された。

 その後、電気式の信号機が普及していった米国に、転機が訪れたのは1947年、カリフォルニアでのことである。当時、道路交通法にあたる「California Vehicle Code 」の476条は、「赤はSTOP」を原則とし、例外として赤信号でも右折可能を示す標識を認めていた。しかしこの年、476条は改正されて原則と例外がそっくり入れ替えられる。RTORの誕生だ。

 すなわち、「赤信号でも右折OK」が原則で、例外として「No Turn on Red」といった標識がある場合には右折不可というルールに変更したのである。このように原則と例外を入れ替えるような改正は、法的に見ると極めて大きな転換だ。いったいどのような力が働いたのだろう。


(次ページに続く)

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