塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第20回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
自分と相手のエンジョイ
2008年10月05日 15時00分更新
エンジョイすること、楽しむこと。それがチカラを高めてくれる

「Enjoy it!!」──店員はそう言って明るく微笑んだ。米国カリフォルニア州、パロアルトにあるアップルストアでの話である。
シリコンバレーに住んでいたころ、パロアルトのアップルストアには頻繁に通った。勤務先のスタンフォード大学のすぐ近くにあるから、通勤途中に気軽に立ち寄ることができる。アップル本社のお膝元だし、スティーブ・ジョブズ氏自身がよく訪れることもあって、数あるアップルストアの中でも「模範的」な店舗と評判だった。実際、ゆったりとした雰囲気の心地よい店だ。
「Wireless Mighty Mouse」を発売日の朝に買ったときのこと。クレジットカードで支払いを済ませ、商品を受け取ってレジをはなれようとする私に店員がかけてくれた言葉。それが冒頭の「Enjoy it!!」である。私は「Thank you. I will!!」と答えながら、「これだ!!」と感じた。相手に楽しんでほしいと願っているからこそ、「エンジョイしてね」と言える。
この店の居心地よい雰囲気は、店員たちのこの気持ちによって形作られているのだ。アップルストアの本質を表す言葉に出逢えて、小さい買い物なのに、なんだかとてもうれしくなった。
実際のところ、この言葉はアップルのプロダクトから感じる心意気だ。Macをはじめとするハードウェア、そこで使うソフトウェア。そのどれもが「エンジョイしてね」とユーザーに話しかけてくる。端正なデザイン、美しいインターフェース、わかりやすいレスポンス、快適な操作性。
アップルが最初にMacを作ったときの思想、「for the rest of us」が今に息づいている。それがストアの雰囲気にも伝播しているということだろう。
(次ページに続く)

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