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明と暗、ふたつの顔を持つカリスマ「スティーブ・ジョブズ」の記録

2008年01月13日 23時00分更新

文● 大谷和利

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ジョブズが犯したいくつかの失敗


 そんなジョブズも、過去にはいくつかの失敗を犯したことがあった。例えば、1970年代後期における未完成製品の出荷である。

 スティーブ・ジョブズは自信家だが、その反面、常に周囲の評価を気にするところもある。若きジョブズが、パーソナルコンピュータの黎明期にベストセラーとなった「Apple II」の成功のまっただ中に居たときに、その人気が高まれば高まるほど、次世代機開発へのプレッシャーも大きくなっていった。

 Apple IIが一般向けとはいえホビイスト寄りの製品だったため、後継、もしくは上位バージョンとなる「Apple III」は、ビジネス市場を狙って計画されていた。ちょうどIBMもパーソナルコンピュータ市場への参入が噂されており、ジョブズ以下アップルの首脳陣は、それに先んじてApple IIIを発表することで、IBMの出鼻をくじく必要があると判断し、急ピッチで開発を急がせた。

 ところが、これが裏目に出て、Apple IIIはテストが不完全なままで出荷されることになり、不具合が続出して市場での不評を買うことになった。一度貼られた欠陥商品のレッテルは、アップルの懸命の改良によってもはがすことができず、Apple IIIが本来の性能を発揮するようになっても、売れ行きは改善されなかった。

 幸いなことにApple IIが売れ続けたため、アップルはビジネスを継続することができたものの、Apple IIIは悲劇のマシンとして同社の歴史に汚点を残すことになった。しかし、ジョブズはこれを教訓として、以後は納期よりも仕様を満たすことを優先するようになる。秘密主義を貫き、製品計画や発表時期を公表しないのも、開発の遅れなどを気にせずに完成度を高めることができるメリットがあるためだ。


曖昧な位置づけによる「G4 Cubeの失敗」


 また、新生アップルの復活後には、曖昧な位置づけの新機種を市場投入するというミスを犯した。それは、2000年の夏にデビューさせた「Power Mac G4 Cube」だ。

 スティーブ・ジョブズは、根源的な形に惹かれるところがある。コンピュータの場合には立方体という形状がそれにあたる。彼は、ネクストを設立して最初の製品としても立方体型のNeXT Cubeを発表し、Power Mac G4 Cubeも彼の肝いりでコンパクトな立方体のマシンとして登場した。

 もっとも、立方体とは言っても、透明のポリカーボケートケースはやや縦長で、その中に立方体形状をしたシルバーの本体が浮いているように見えた。ジョブズは、この様子を「ビーカーに浮かぶ銀のブレイン」と呼び、彼が本当に笑みを浮かべて喜んだマシンは、手塩にかけた初代iMacと、このG4 Cubeだったという側近の証言もあるほど気に入っていた。

 当時のアップル製品のラインアップにおけるG4 Cubeの位置づけは、エントリーモデルの一体型iMacと、プロ向けモデルのモジュラー型Power Mac G4の中間的な存在であり、一言で表すならば「iMacのシンプルさとPower Mac G4のパワーを併せ持つマシン」だった。

 しかし、そこに落とし穴があった。確かにG4 Cubeは、美しく素晴らしいマシンだったが、一般コンシューマーにとってはPower Mac並みに高価で、プロにとってはiMacのように拡張性に乏しい製品として認識されてしまったのだ。その結果、iMacとPower Mac G4は売れ続けたが、G4 Cubeの販売は奮わず、約1年で生産中止の憂き目に遭う。

 このときの失敗から、ジョブズは、どんなに内容的に優れていても位置付けの曖昧な製品は市場に受け入れられないという教訓を得た。それ以来、アップルは、自社製品同士で競合することがないように、個々の製品の性格付けを一層明確に行なうようになったのである。

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