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明と暗、ふたつの顔を持つカリスマ「スティーブ・ジョブズ」の記録

2008年01月13日 23時00分更新

文● 大谷和利

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 あと数日で、アップルのCEO・スティーブ・ジョブズの基調講演に「再び世界が刮目する瞬間」が訪れる。

スティーブ・ジョブズ

スティーブ・ジョブズ

スティーブ・ジョブズ

「iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」(アスキー新書)

 彼の劇的な復活以後、「iMac」「iBook」「iPod」そして「iPhone」というメガヒット商品を生み出し続けてきたアップルと、そのビジネスのシークレットには、分野を問わず多くの企業が注目しており、過去20数年に渡ってアップルの動向をウォッチングしてきた筆者のもとにも、急な講演依頼が増えつつある。

 そんな動きと一概に歩調を合わせたわけではないのだが、筆者は今月11日に1冊本を上梓する。「iPodを作った男~スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス」(アスキー新書)だ。そこには、なぜジョブズ率いるアップルだけが、次々に革新的な製品やサービスを開発し、世に送り出せるのか、自分が知る限りの秘密が書かれている。

 ここでは、その中のエピソードを引き合いに出しながら、同社の躍進のノウハウを垣間見てみよう。



「ジョブズ・プレゼンの秘密」
~MacWorld Expoの予習を兼ねて


 スティーブ・ジョブズは、よく「ワンマンだ」と言われる。しかし、それを、会社を私物化したり、身勝手な振る舞いをする経営者という意味にとらえてはいけない。彼は、ひとりでさまざまな楽器を演奏する「ワンマンバンド」的なニュアンスでの「ワンマン」なのだ。

 ジョブズは、アップルの創業者であり、現在のトップであると同時に、クリエイティブディレクターであり、広告塔であり、βテスターであり、プレゼンターでもある。

 彼は、得意の「マイクロマネジメント」の手法(瑣末なことまで管理する手法)で現場に介入し、会社の隅々にまで目を光らせ、自らの製品ポリシーを徹底して反映させる。それは、コンセプト、デザイン、性能、ユーザー体験のすべてにおいて、業界で最高の製品を作るという哲学だ。


製品の魅力は「自らの言葉」で伝える


 そんな彼が、自ら喜々として自社製品について語る姿を目の当たりにできる機会が、MacWorld Expoの「キーノート・プレゼンテーション」(基調講演)である。

 さまざまな企業の製品発表会に参加してみると、組織のトップの人間になるほど、台本を棒読みしているような面白くない話を聞かされて、がっかりすることがある。特に取締役や管理職のスピーチは、原稿に目を落としながら形式的な美辞麗句に終始する場合も多く、自社プロダクトのセールスポイントや可能性を本当に信じているのか、見ているほうが心配になることも少なくない。

 しかし、スティーブ・ジョブズは違う。アップル内でも、彼以上に自社の製品を愛し、それが持つポテンシャルを心から信じている人間は居ない。だからこそ、重要なイベントにはジョブズ本人が現れ、自らプレゼンテーションを行なうのである。

 しかも、彼が行なうプレゼンテーションは桁外れに魅力的だ。そのカリスマ的な個性と相まって、キーノートスピーチをロックコンサートに喩える人もある。緩急巧みに観客の期待に応えながらイベントを盛り上げ、クライマックスへと持って行く手腕。そして、終盤にこれでもう終わりかと思わせて、アンコールのように「One more thing」を披露する演出。


シナリオも資料もジョブズ自身が作る


 もちろん、ジョブズのプレゼンテーションにも台本はある。しかし、その筋書きのほとんどは、CEOである彼自身が考え出し、決して広告代理店に仕切らせたり、広報担当者がストーリーを準備することはない。

 その仕込みはイベントの数週間前から始まり、社内で開発中のプロダクトや技術をジョブズ自らが精査して、どれをプレゼンテーションに含めるべきかの取捨選択を行なう。もちろん個々の製品について独立した開発スケジュールは存在するが、彼は市場に与えるインパクトのタイミングを最重要視してキーノートの内容を決めていく。

 プレゼンテーションの中で、何をどんな順番で見せ、何にどれくらいの時間を割くかを決めるのもジョブズである。しかも、一度決めた順番や時間配分に固執することなく、必要に応じて構成を変え、キーノート全体の完成度を極限まで高める努力をする。

 さらに、彼はプレゼンテーションファイル自体も自分で構成する。社内のデザイナーも手助けはしているが、ほとんどの文章やレイアウトはジョブズ自身の手になるものだ。時にはブランクのページをはさみ、観客の注意を画面ではなく自分に向けさせるようにするなど、単なるスライドショーではなく、生の声やジェスチャーがもたらす効果も十分に考慮されている。

 リハーサルには丸二日かけ、その間にもいくつかのバリエーションを試しながら、時間が許す限り完璧な構成を模索していく。そして幕が開き、世界が刮目するのである。


ライブでの熱狂とプレゼンテーションの教科書


 そんなジョブズのキーノートは、ロックコンサートと同じくライブで観るのが一番だ。しかし、最近では大きな発表の後には、録画されたプレゼンテーションの模様がアップルのウェブサイトからストリーミングで視聴できるようになっている。おそらく今回のMacWorld Expoでも、同様の映像が公開されるだろう。

 もし、あなたが、会社や学校内で何らかの発表を行なう機会があるのなら、少なくとも一度はスティーブ・ジョブズのパフォーマンスを見ておくべきだ。それは、アップル製品をより良く知るための機会であると同時に、プレゼンテーションの教科書なのである。

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