カトリーヌ・メミの家具ショップ
そのあとで立ち寄ったショップはフランスのデザイナー、カトリーヌ・メミ※2の家具のお店である。
※2 米国ニューヨークのソーホー地区にあるカトリーヌ・メミの直営店は、インゴ・マウラーのショップと同じグリーン通りにある。住所は「45 Greene St., New York, NY 10013」。日本では南青山の直営店(港区南青山5-3-2)のほか、恵比寿のカッシーナ・イクス(渋谷区恵比寿2-20-7)でも彼女の作品を取り扱っている。次のURLを参照:http://www.catherinememmi.com/
彼女の名前はここニューヨークのギャラリーで初めて知ったのだが、極めてシンプルなフォームながら、重厚な黒のオーク材とダークブラウンの皮、そして部分的に銀色のメタルを組み合わせた深淵なデザインに新鮮さを覚えた。特に楕円のテーブル「OVALE dining table」はかなり真剣に購入を考えさせられる逸品だったが、予算と家の大きさ(小ささ?)、輸送の困難性などを踏まえて、残念ながら今回は見送ることにした。
「moss」の鋭いコンセプト
初日のデザインショップ探訪の最後に訪れたのは、「moss※3」という名前の新しいショップである。このお店はMoMA出身のキューレーターが始めたとてもホットなお店だと聞き、楽しみにしていた。
※3 '94年にモス・マレイとフランクリン・ゲッチェルがソーホー地区のギャラリーを改装してオープンしたデザインショップ「moss」。やはりグリーン通りにあり、住所は「150 Greene St., New York, NY 10012」。ウェブサイトはこちら:http://www.mossonline.com/
店内に足を踏み入れても期待は寸分も裏切られず、研ぎすまされたデザイン+アート感覚で選ばれたスグレモノたちが店いっぱいに並んでおり、閉店まであっという間に時間が過ぎてしまった。
時計や照明、宝石、本、家具、おもちゃ、台所用品など、長い間見ていてもまったく飽きない。特に時計は、すでに十分持っているにもかかわらず、思わず欲しくなるような美しいデザインのものがあふれていた。また、遊び心にあふれた社会風刺人形など、そのコンセプトが奥深いものも多かった。
次のデザインへの大きな可能性
プロダクトデザインとインテリアデザイン、そしてアートが織りなす境界は、私にとってとてもホットな領域だ。それは、物理的環境にアート的な視点からデジタル技術を溶け込ませるという、自分の研究の大切な入り口にもなりうるからである。
今回ニューヨークで見た作品はどれも、基本的にパッシブな物理的なモノ(+電気)であり、電気エネルギーは利用するものの、ネット世界と結びついた本格的コンピューティングとはまだカップリングしていない。そこに、次の世代のデザイン「考え得るモノたち」の大きな可能性を感じるのだ。
(MacPeople 2007年4月号より転載)
筆者紹介─石井裕
米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ教授。人とデジタル情報、物理環境のシームレスなインターフェースを探求する「Tangible Media Group」を設立・指導するとともに、学内最大のコンソーシアム「Things That Think」の共同ディレクターを務める。'01年には日本人として初めてメディア・ラボの「テニュア」を取得。'06年「CHI Academy」選出。「人生の9割が詰まった」というPowerBook G4を片手に、世界中をエネルギッシュに飛び回る。
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