月刊アスキー 2008年1月号掲載記事
原油価格は2007年10月18日、史上初めて1バレル=90ドルを突破した。今から10年前のアジア通貨・経済危機の際には、1バレル=10ドル台で低迷していた原油価格が、この10年間で約10倍近くまで跳ね上がった。
こうした状況を背景に、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)をはじめとした中東産油国は、原油輸出で得た膨大なオイルマネーを武器に、欧米企業のM&A(企業の合併・買収)に触手を伸ばしている。そして、次に狙われるのは技術力のある日本企業だ。
下の表は、中東諸国が2007年5月以降に行った日米欧企業への投資案件を示したものだ。たとえば、ドバイの政府系投資会社イスティスマールは、カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開しているファーストリテイリングと1カ月にわたる争奪戦の末、米高級衣料品店バーニーズ・ニューヨークの買収に成功した。また、9月にはアブダビの政府系投資会社IPICが、石油精製・元売り大手のコスモ石油に対し、約900億円の出資を決め、同社の筆頭株主(20.76%)になった。中東の専門家によれば、2007年以降、中東諸国の海外株式投資は700億ドル(約8兆4000億円)に達し、サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題で身動きのとれない米国の投資ファンドに代わり、世界のM&Aの台風の目になっているという。
では、なぜ中東産油国が海外投資を積極化させているのだろうか。理由は3つある。
第一に、オイルマネーの有効活用だ。原油価格は永久に上昇することは考えにくい。むしろ価格高 騰が敬遠され、代替エネルギーや省エネの利用促進で、原油価格暴落の可能性が高くなる。そのため、蓄えたオイルマネーを運用する必要があるのだ。
第二に、石油資源枯渇への準備。サウジアラビアやクウェートは別としても、ドバイなどの石油 資源は、今後10年程度で枯渇するといわれている。石油資源枯渇後に備えた産業構造の高度化を図る ためにも、海外企業の技術とノウハウの導入は必至だ。
第三に、石油依存からの脱却。国家財政は石油市場に委ねられているといってもよい。企業への投 資は、安定的な収益基盤の確立につながるのである。
中東産油国が保有する運用資金は50兆~100兆円に達する、といわれている。自国の産業多角化に貢献するであろう日本のハイテク企業や石油精製・元売り企業、石油化学企業などは魅力的に映っ ている。原油価格が高騰している現在、中東産油国が一斉に日本企業の買収に乗り出すのは、時間の 問題なのである。