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石井裕の“デジタルの感触” 第19回

石井裕の“デジタルの感触”

東京のスピード、ネットのスピード

2007年11月24日 22時59分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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電子メールが創造的思考を止める


 最近、よく明け方に突然目が覚める。電子メールソフト「Eudora」の受信ボックスが未読メールであふれかえる夢を見て、はっと目が覚めるのである。時には、返事が遅れていることに腹を立てたスポンサー企業の方々まで夢に登場する。こうなると、明け方だろと睡眠不足だろうと、メールを読み続けないと心配でしょうがなくなる。もう病気だ。

 しかしEudoraに向かえば向かうほど、私の本業である研究という創造的活動の時間はゼロに近づいていく。もう、UUCPののどかな時代には戻れない。ITによって加速した現代は、決してスローダウンしない。

 東京の地下鉄・電車のネットワークは、乗り換え案内サービスを使ってしっかりとプランを立てれば、降車する駅まで集中して本を読んだり考えごとをしたりできる。すなわち、たとえ細切れの時間であっても、何か生産的なことをする環境を提供してくれる。

 一方、常時オンのコンピューターネットワークを通って流れ込む電子メールは、私の創造的思考をほぼ完全に止めてしまう。ゲームオーバー直前の「テトリス」のようにただ到着するメールに反応するだけだ。あっという間に一日が終わり、夜が明けてしまう──と書きながらも、時計を見るともう朝の4時。そろそろ空が白み始めるころだ。明日もまた200通を超すメールを処理するためのエネルギーを充填するため、ここで少しだけ眠ることにしよう。

(MacPeople 2007年1月号より転載)


筆者紹介─石井裕


著者近影

米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ教授。人とデジタル情報、物理環境のシームレスなインターフェースを探求する「Tangible Media Group」を設立・指導するとともに、学内最大のコンソーシアム「Things That Think」の共同ディレクターを務める。'01年には日本人として初めてメディア・ラボの「テニュア」を取得。'06年「CHI Academy」選出。「人生の9割が詰まった」というPowerBook G4を片手に、世界中をエネルギッシュに飛び回る。



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