電子メールが創造的思考を止める
最近、よく明け方に突然目が覚める。電子メールソフト「Eudora」の受信ボックスが未読メールであふれかえる夢を見て、はっと目が覚めるのである。時には、返事が遅れていることに腹を立てたスポンサー企業の方々まで夢に登場する。こうなると、明け方だろと睡眠不足だろうと、メールを読み続けないと心配でしょうがなくなる。もう病気だ。
しかしEudoraに向かえば向かうほど、私の本業である研究という創造的活動の時間はゼロに近づいていく。もう、UUCPののどかな時代には戻れない。ITによって加速した現代は、決してスローダウンしない。
東京の地下鉄・電車のネットワークは、乗り換え案内サービスを使ってしっかりとプランを立てれば、降車する駅まで集中して本を読んだり考えごとをしたりできる。すなわち、たとえ細切れの時間であっても、何か生産的なことをする環境を提供してくれる。
一方、常時オンのコンピューターネットワークを通って流れ込む電子メールは、私の創造的思考をほぼ完全に止めてしまう。ゲームオーバー直前の「テトリス」のようにただ到着するメールに反応するだけだ。あっという間に一日が終わり、夜が明けてしまう──と書きながらも、時計を見るともう朝の4時。そろそろ空が白み始めるころだ。明日もまた200通を超すメールを処理するためのエネルギーを充填するため、ここで少しだけ眠ることにしよう。
(MacPeople 2007年1月号より転載)
筆者紹介─石井裕
米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ教授。人とデジタル情報、物理環境のシームレスなインターフェースを探求する「Tangible Media Group」を設立・指導するとともに、学内最大のコンソーシアム「Things That Think」の共同ディレクターを務める。'01年には日本人として初めてメディア・ラボの「テニュア」を取得。'06年「CHI Academy」選出。「人生の9割が詰まった」というPowerBook G4を片手に、世界中をエネルギッシュに飛び回る。
この連載の記事
-
最終回
iPhone/Mac
Macintoshを通じて視る未来 -
第29回
iPhone/Mac
私のヒーロー -
第28回
iPhone/Mac
テレビの未来 -
第27回
iPhone/Mac
表現と感動:具象と抽象 -
第26回
iPhone/Mac
アンビエントディスプレー -
第25回
iPhone/Mac
切り捨てることの対価 -
第24回
iPhone/Mac
多重マシン生活者の環境シンクロ技法 -
第23回
iPhone/Mac
「プロフェッショナル 仕事の流儀」出演を振り返る -
第22回
iPhone/Mac
ニューヨークの共振周波数 -
第21回
iPhone/Mac
ロンドンの科学博物館で見た過去と未来 -
第20回
iPhone/Mac
アトムのスピード、ビットのスピード - この連載の一覧へ