このページの本文へ

今さら聞けないIT英語 第25回

文脈によって指すものが変わる 「architecture」

2006年12月08日 00時00分更新

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 IT関連のWebサイトや雑誌を読んでいると「architecture」という言葉をたびたび目にする。もともとは建築用語で、建築様式や建築設計という意味の言葉だ。それが近年ではコンピュータ用語としても使われるようになった。そんなarchitectureは、しばしば理解しにくいIT英単語だと言われることがある。それはなぜか。まずはコンピュータ科学でよく用いられる文章を読んで、architectureという言葉を確認してみよう。

Computer Architecture is the science and art of selecting and interconnecting hardware components to create computers that meet functional, performance and cost goals. Computer architecture is not about using computers to design buildings.(コンピュータ・アーキテクチャとは、機能およびパフォーマンス、費用などの目的を満たすコンピュータを作るためにハードウェアの部品[構成物]を選択し、相互に接続するための科学と技術のことである。コンピュータ・アーキテクチャは、建物を設計するためにコンピュータを利用することではない)

 つまりIT英語におけるarchitectureは、コンピュータの構成や設計に関わる言葉なのだ。もともと建築用語だったarchitectureがIT用語としてはじめて使われたのは1964年とされている。この年、IBMが発表したメインフレーム「システム/360」は、モデルが異なる複数のコンピュータに“共通した命令セット”が使える画期的なものだった。当時のエンジニアたちは、この共通した命令セットを「様式=同類のものの間に共通の」から転じてarchitectureと呼ぶようになったという。それが次第に発展していき、今日のような使い方をされるようになったのだ。

 では、なぜarchitectureは理解しにくいのか。それは文脈によって指すものが異なる言葉だからだ。どういうことなのか、実例を見てみながら考えてみよう。

You must have a basic understanding of the architecture of ORACLE to help you start thinking about an ORACLE database in the correct conceptual manner.(正しい概念でオラクルデータベースを思考するためには、オラクルのアーキテクチャを理解していなければなりません)

 現在、IT英語におけるarchitectureは、ハードウェアはもちろんソフトウェアの世界でも広く使われている。その意味するところは「(コンピュータ関連で)『何をどうやって実現するか』という方法や考え方」で、基本設計や設計思想と訳されることが多い。IT用語の「実装(implementation)」が実際に機能を組み込むための具体的な作業のことを指しているのに対し、architectureは目的(機能)を実現するための方法論やアプローチのことを指している。

 したがって先の英文が言わんとしているのは、「オラクルの設計思想(オラクルがどういう目的や役割を果たすために、どのように設計されているのか)を理解していなければ、オラクルデータベースを有効に使うことはできませんよ」ということなのだ。

 このほかにもarchitectureが指すものがある。次のIT英文を読んでみよう。

The architecture is called x86 because the earliest processors in this family were identified by model numbers ending in the sequence "86".(このアーキテクチャは、同ファミリーの最新プロセッサが“86”で終わる連番のモデルナンバーで区別されることから、“x86”と呼ばれます)

 このarchitectureは「ある設計(思想)に基づく『技術』」を指す言葉として使われている。上の英文ではx86というプロセッサを指しているが、文章によって指すものはコンピュータ全体からCPUなどコンピュータを構成する個々のハードウェア、OSやミドルウェア、アプリケーションなどのソフトウェアまでさまざま。ある設計(思想)に基づく技術であれば何でもarchitectureが指すものになる可能性がある。つまり、何を指しているのかは文脈から判断するしかないのだ。

 このようにarchitectureは、目的を実現するための方法論や技術的アプローチを指す場合もあれば、単にある特定の技術を指す場合もある。そのため文中や会話にarchitectureが登場したときは、何を指すつもりで使ったのかを確認して認識の相違によるトラブルを防ぐようにしたい。

文脈によって指すものが変わる「architecture」

Illustration:Aiko Yamamoto

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ