イスラエルの企業が開発したスパイウェア「Pegasus(ペガサス)」が、世界各国の記者や人権団体関係者、企業の幹部、政治家らのスマートフォンにインストールされていた。
アメリカのワシントン・ポストなどが2021年7月18日から報じている。
世界10ヵ国の17の報道機関や、人権団体アムネスティ・インターナショナルが共同で、Pegasusがインストールされた疑いのある約5万件の電話番号のリストを調査した。
そのうち37台のスマホについて、Pegasusを使ったハッキングが成功したことを示す証拠を得たという。
このニュース、見出しが「記者のスマホ」になっているため、スルーした人もいるかもしれない。しかし調査に参加した各社の報道からは、事態はより深刻であることが伝わってくる。
リストには、14人の国家元首級の人物の名前が載っている。内訳は大統領3人、首相10人、王様1人。
もっとも広く知られている名前はフランスのマクロン大統領だろう。イラクのサリフ大統領、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領の名前もある。王様は、モロッコのモハメッド6世国王だ。
調査の制約
日本の大手メディアでは「記者のスマホ」が狙われたことが、中心に報じられている。
国際的な調査報道に加わったメディア17社は、本来であれば「大統領のスマホ」と報じたかったが、そこまでは書けなかったのではないか。
背景には、調査上の制約がありそうだ。調査はおそらく、以下のような流れで進んだと考えられる。
●Pegasusのターゲットになったと思われる電話番号約5万件のリストを入手
●パリの非営利調査報道機関「Forbidden Stories」がコーディネータに
●世界17の報道機関が参加
●約5万件の電話番号を精査
●スマホの所有者に協力を依頼
●協力を得られたスマホをアムネスティ・インターナショナルなどが解析
ワシントン・ポストによれば、解析ができたのはスマホ67台で、そのうちハッキングの痕跡を確認できたのは37台だった。
5万件という膨大な数のリストを得たとしても、実際に解析までできるのはわずかだ。
プロジェクトに関わっているメディアの人たちや、人権団体の人たちは、調査の意義に賛同してくれて、スマホを差し出してくれるかもしれない。しかし、政治家や政府高官からスマホの提供を受けるハードルは限りなく高い。
実際、この調査プロジェクトに参加した報道機関は、リストに掲載された大統領や首相に対して協力を要請したが、協力は得られなかったという。
各国政府の協力を得て5万件のリストを本格的に精査すれば、結果はさらに恐ろしい内容になっていた可能性がある。
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