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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第129回

紙の契約書なくそう 「脱ハンコ」全国で進む

2021年05月31日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 国が急速に行政手続きのデジタル化を進める中、全国各地の市町村でも、少しずつデジタル化の取り組みが加速している。

 電子契約サービスなどを手がけるGMOグローバルサイン・ホールディングス(以下、GMO-GSHD社)は、自治体向けの「脱ハンコ」サービスを強化している。

 GMO-GSHD社は2021年5月下旬までに全国の64自治体と、実証実験の実施で合意した。

 当面は、自治体と外部の企業が契約を結ぶ際の、紙の契約書を電子契約書に切り替える取り組みを試行するという。

 鳥取県米子市は6月から約2ヵ月かけて、GMO-GSHD社とともに、電子契約の実証実験を実施する。

自治体も人手が足りない

 「庁内のデジタル化は、急速に進めるべき喫緊の課題と考えています」

 米子市で行財政改革を担当する調査課の宇山芳直課長補佐は、こう話す。

 人口約14万6000人(2021年4月末現在)の米子市がデジタル化を進める背景には、他の市町村と同様、少子高齢化や人手不足がある。

 「業務が複雑化し、現場から人手が足りないという声がどんどん上がってきます。十分な住民サービスを提供するには、機械にできることは機械にやってもらわないと、近い将来、必要なところに十分な人材を手当てできなくなる」と、宇山氏は危機感を口にした。

 米子市が外部の事業者と交わす契約書には、いまのところ紙を使っている。

 パソコンでつくった契約書を印刷し、市と事業者の代表者がそれぞれハンコを押す。

 時間と手間のかかる作業を、電子契約に置き換えるのが、今回の実証実験だ。

 押印の準備が完了した電子契約書を、GMO-GSHD社のクラウドサーバーにアップロードし、市側と事業者側がそれぞれ電子印鑑を押す。

 現状は、市役所と事業者の事務所にそれぞれ紙の契約書を保管しているが、電子契約書はサーバー上に保管されることになる。

 市は実証実験を通じて、紙の契約書を郵送する手間などが削減されることで、担当者の業務負担がどのくらい軽減できるか確認したいという。

契約書を取りに行く文化

 GMO-GSHD社デジタル・ガバメント支援室の佐藤浩文氏は、紙ベースの契約手続きは、自治体にとっても事業者側にとっても、負担が重いと考えている。

 たとえば、入札で業務の受注が決まった事業者は、市町村の庁舎に出向いて、契約書を受け取りに出かけることが多いという。

 郵送で契約書を受け取ることもできるが、契約書が届くまでの待ち時間を省くため、このような慣例が存在するようだ。

 さらに自治体の契約の事務は、4月、9月、12月などに集中することが多い。こうした月には、契約書に押印する権限がある市町村長ら幹部の部屋の前に、各課の担当者の行列ができる。

 そうなると、市側の手続きが完了するまで、事業者側が待っている時間も長くなりがちだ。

 佐藤氏は「こうした待ち時間は、事業者にとっても、行政機関にとっても見えないコストとなります。ほとんどの自治体で、同様の課題があるようです」と話す。

 同社は、契約を紙から電子に切り替えることで、民間企業の場合8割程度、自治体の場合は3~4割程度の業務負担の削減につながるとしている。

 「紙の契約書を取りに行くことも、持っていくこともなくなります。極論ですが、契約手続きは10分で完了できます」と佐藤氏は強調した。

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