Mr.ウォーカー玉置泰紀が厳選! おすすめスポット/アイテムベスト5 第34回

【決定版・日曜美術館50年展】大阪中之島美術館で見逃せない5つの至宝! 放送半世紀の歩みをたどる奇跡の美術体験

文●玉置泰紀(元角川アスキー総合研究所・エリアLOVEウォーカー総編集長、一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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大阪中之島美術館で見逃せない! 至宝のベスト5

第5位:世紀転換期の光と影をまとった、静謐なる女性像

エドヴァルド・ムンク 『マイスナー嬢の肖像』

エドヴァルド・ムンク『マイスナー嬢の肖像』(1907年)。ひろしま美術館

 ノルウェーに生まれたムンクは、5歳で母を、14歳で姉を結核で亡くすなど、死を身近に感じる境遇で育ち、人間の内面にある不安や孤独を描く近代の代表的な画家となった。本作は、ドイツ滞在期の1907年に描かれた女性像で、モデルはムンクがベルリンで起用していたプロのモデル、ロサ・マイスナーである。静けさのなかに、モデルの内面に踏み込もうとするまなざしが感じられる一枚だ。

【胸熱トリビア】 モデルのロサ・マイスナーは、姉のオルガとともにムンクが起用したプロのモデル。1907年、北ドイツの港町ヴァルネミュンデに同行した彼女を、ムンクは写真にも収めている。その写真は、のちに『泣く女』のテーマを絵画・版画・彫刻へ広げるきっかけになったとされる。静かな肖像画の向こうに、ムンクの次の展開の気配が見える一枚だ。

第4位:日常の文脈を鮮やかに裏切る、シュルレアリスムのユーモア

ルネ・マグリット 『レディ・メイドの花束』

ルネ・マグリット『レディ・メイドの花束』(1957年)。大阪中之島美術館

 ベルギーに生まれたマグリットは、王立美術アカデミーで学び、若い時期にキュビスムや未来派、ダダの影響下で制作を行い、のちにシュルレアリスムに転向した。日常的なモティーフを用いながら現実にはあり得ない超現実的な場面を描く代表的画家であり、言葉とイメージの関係を問い続けたその作品はのちのポップ・アートの作家たちにも大きな影響を与えた。

 本作は、マグリットが繰り返し描いた山高帽の男の背中に、ボッティチェリ《春》の花の女神フローラを重ねた1枚。ルネサンスの名画の図像を、ごくありふれた男の姿に貼り合わせた画面だ。題名の「レディ・メイド(既製の)」は、日用品をそのまま作品として示したデュシャンの「レディメイド」を連想させる。

【胸熱トリビア】「レディ・メイド」とは、デュシャンが1910年代に生んだ、既製品を作品として示す概念で、のちのポップ・アートに多大な影響を与えた。本作でマグリットが「既製品」のように持ち出したのは、ボッティチェリ《春》の女神フローラだ。名画の一人物が、山高帽の男の背中に貼りついている。番組の「私と○○」の時代には、寺山修司さんがマグリットを語った回もあった。縦1.6mを超える大画面で、古典と日常がひっくり返る瞬間を確かめたい。

第3位:現代の閉塞感と青年の閉塞感を鋭く撃ち抜く強烈なリアリティ

石田徹也 『飛べなくなった人』

石田徹也『飛べなくなった人』(1996年)。静岡県立美術館

 1973年に静岡県焼津市で生まれ、2005年に31歳で急逝した石田徹也。就職氷河期世代を生きる画家として、人間が機械や器物と一体化して身動きが取れなくなった姿を描き続けた。本作は、古びた飛行機の遊具とスーツ姿の男が一体化した1枚。飛び立とうとしながら、その表情は沈んでいる。現代人が社会システムの中で感じる閉塞感や焦燥を、ユーモアと痛みをないまぜにして画面に定着させた代表作である。

【胸熱トリビア】 本作は、2006年9月17日放送の「悲しみのキャンバス 石田徹也の世界」(当時の番組名は『新日曜美術館』)で紹介され、大きな反響を呼んだ。ロックミュージシャンの大槻ケンヂさんは番組で、幼い頃に誰もが抱く将来や人生への不安を、石田が一身に引き受けて絵にしていたかのようだと語っている。翌2007年には静岡県立美術館が同じ「悲しみのキャンバス」の名で展覧会を開き、本作も2007年度に両親から同館へ寄贈された。いまは本展のビジュアルを飾る、石田作品の顔となっている。

第2位:明治の近代絵画史に燦然と輝く、歴史的ポートレート

高橋由一 『花魁』

高橋由一『花魁』(1872年)。東京藝術大学。重要文化財

 下野国佐野藩士の子として生まれ、狩野派を経て西洋の石版画に感銘を受け、西洋画の学習やワーグマンへの師事を通じて油絵技法を習得した高橋由一。明治維新後に画塾「天絵楼」を設立して多くの後進を育て、「日本洋画の開拓者」として伝統から近代への橋渡し役を果たした。

 1972年に重要文化財に指定された本作は、吉原の遊女をモデルとし、美化することなく一人の人間としての生々しい肉体感と冷徹な客観性を持って画布に焼き付けた歴史的ポートレートであり、花街の姿や髪型が失われるのを惜しんだ人が、油絵で記録するよう由一に託したもの。モデルとなった稲本楼の花魁・小稲は、盛装で由一の前に座った。画面では重たげな櫛や笄で飾った髪型や、厚みのある衣装が際立ち、顔立ちには錦絵のような理想化がない。

【胸熱トリビア】 花街の姿が失われるのを惜しんだ人の依頼で、由一は稲本楼の花魁・小稲を描いた。多くの遊女が錦絵に描かれることを望むなか、モデルを引き受けたのは小稲だけだったという。ところが完成作を見た小稲は、自分はこんな顔ではないと泣いて怒ったと伝わる(門人・彭城貞徳の回想)。錦絵に慣れた目には、あまりに生々しい写実だった。この絵は、描かれて約100年後の1972年に、重要文化財に指定された。

第1位:精緻を極めた画面に宿る、奇想の画家・若冲のまなざし

伊藤若冲 『石燈籠図屏風』

(前期:右隻を10月10日〜11月15日展示、後期:左隻を11月17日〜12月20日展示)

伊藤若冲『石燈籠図屏風』右隻(江戸時代・18世紀)。京都国立博物館

 ほぼ独学で絵画の腕を磨き、細密な花鳥画から奔放な水墨画まで数々の傑作を残した伊藤若冲。大阪会場限定で登場する本作は、一筆一筆に神経を張り巡らせた驚異的な描写と鋭利なまなざしが同居する至宝の屏風絵である。

【胸熱トリビア】 第2章は、村上隆氏らの言葉とともに若冲らの作品を紹介している。しかも、前期・後期で左右隻が入れ替わる大阪会場ならではの妙味も存分に堪能できる。

 本作は若冲晩年の珍しい主題で、立ち並ぶ石燈籠をメインに据えたほぼ唯一の作品。石の表面を覆う無数の点描(点々を打ち重ねる技法)で、微妙な濃淡と粗密を操り、石のざらざらした質感や立体感を驚異的に表現している。西洋の点描画(スーラなど)より約100年も先行する技法で、晩年の若冲がなお新機軸を試みた執念が感じられる。

 さらに修復時に、若冲自筆とみられる墨書「生島子石画後々余遇也」と印が発見され、発注者「生島」との関係を示す貴重な手がかりとなった。稲荷山(深草近く)からの眺望という説もあり、晩年を過ごした土地の記憶が静かに息づく屏風だ。前期で右隻、後期で左隻と完全に入れ替わる大阪限定の機会を、ぜひ両期通して味わってほしい。

こちらも見逃せない! 珠玉の名品たち

縄文土器 深鉢 火焔型土器(新潟県長岡市深沢町岩野原遺跡出土、縄文時代・中期、國學院大學博物館蔵):ダイナミックで装飾性の高い文様やうねりの造形は、縄文人たちの繊細かつ大胆な自然への感性を伝える。

アルベルト・ジャコメッティ(『腕のない細い女』1958年、彫刻の森美術館蔵):スイスに生まれ、キュビスムやシュルレアリスムを経て細長く引き伸ばされた身体表現に到達したジャコメッティのブロンズ像は、人間の本質的な孤独を体現するものとして支持を集めた。

岡本太郎(『遭遇』1981年、川崎市岡本太郎美術館所蔵):1981年の番組出演時に「芸術家じゃなくて、芸術だ」と語った太郎が、原始的な生命力と現代的な抽象表現を高次元で融合させたエネルギーあふれる作品。

靉光(『梢のある自画像』1944年、東京藝術大学所蔵):戦時下でも前衛芸術を守り抜こうとした靉光が描いた、背後の不穏な梢と自らの内面を射抜く自画像は、過酷な運命のなかで芸術の尊厳を守り抜いた気高き遺言である。

大竹伸朗(『釣船 #1』2006年、作家蔵):実際の船の廃材や古びたパーツを何重にも重ね合わせ、日常の断片からまったく異次元の強烈なイメージ空間を立ち上げる現代アートの真骨頂。

 

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