病気予測はもうお腹いっぱい。医療が知るべきなのは「いま体で起きていること」
「病気を予測する」技術もいいけれど
遺伝子、血液、唾液、尿。近年、「病気を早く見つける」「将来のリスクを予測する」とうたう検査技術は一気に増えた。正直、「またこの手のやつか」と感じてしまう人も多いだろう。
だが、こうした“予測ブーム”の裏側で、ずっと変わらず使われ続けてきた検査技術がある。それがELISA(エライザ)だ。
信頼と実績の測定法「ELISA」とは
ELISAは、血液などの中から特定のタンパク質だけを検出する検査法だ。抗体で目的のタンパク質を挟み込み、その量を測る。原理はシンプルだが再現性が高く、結果の信頼性が求められる医療・創薬・研究の現場で、長年“標準技術”として使われてきた。ただし、ELISAには弱点がある。量が少なすぎるタンパク質は測れないことだ。
病気の兆しは、まず体内のタンパク質変化として現れる。だが、症状が出る前や初期段階では、その量は極めてわずかだ。唾液や微量血液のような身体に負担のない非侵襲サンプルでは、なおさら検出が難しい。この感度の壁が問題になるのは、発症前後の「未病」と呼ばれる状態だ。症状はないが、体内ではすでに微細な変化が始まっている。
ELISAの“感度の壁”を壊す
この問題に取り組んでいるのが、早稲田大学発スタートアップの株式会社BioPhenoMA。同社の基幹技術「酵素サイクリング改良法(TN-cyclon)」は、従来のサンドイッチELISA法と酵素サイクリング法を組み合わせた手法だ。
サンドイッチELISAは、目的のタンパク質を抗体で両側から挟み込んで捕捉する方法で、狙ったタンパク質を高い確実性で測定できる。一方、酵素サイクリングは、反応によって生じた信号を繰り返し増幅することで、微弱な変化でも検出しやすくする技術である。
TN-cyclonでは、まずサンドイッチELISAによって目的タンパク質を確実に捕まえ、その後、酵素サイクリングによって同じ分子からの信号を何度も増幅する。これにより、従来は見逃されがちだった極微量のタンパク質でも検出可能となるという。
つまり、新しい検査方法ではなく、既存の“定番技術”の測定限界を、物理的に押し広げているのが特徴だ。大型装置や複雑な前処理を必要とせず、ゼプトモル(10⁻²¹ mol/assay)レベルという、ほぼ分子レベルの検出限界を実現している。
BioPhenoMAは、誰もがどこでも簡単に「極微量タンパク質検出」を行えることを目指しており、すでに研究用途向けとして、同社技術を用いたELISAキットを受注販売している。
「予測技術」ではなく、「測れるようにする技術」
遺伝子検査は体質を示し、予測AIは統計的な傾向を示す。一方ELISAは、たんぱく質を通じて、いま体で何が起きているかを見るための技術だ。BioPhenoMAが目指しているのは、未来を言い当てることではない。小さすぎて見逃されてきた変化を、確実に捉えることにある。
創薬の効率化、薬の作用機序の解明、個別化医療。そのどれもが、「まず正確に測れること」を前提としている。
未来の医療を語るのも楽しい。だが正直なところ、いまの治療や予防が少しでも確実になるほうが、うれしい。BioPhenoMAが挑んでいるのは、そんな実感に近い場所で、医療の精度を底上げする技術なのだ。
















































