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薬で治らない難病に挑む。“暴れる抗体”を狙い撃つ新技術

特集
未来を変える科学技術を追え!大学発の地味推しテック

見つからない“難病”のやっかいさ

 難病とは、珍しくて治療が難しい病気のこと。最近は有名人の公表などで耳にする機会も増え、認知が広がってきたが、実際には「診断されるまで」がとても大変だ。発見が難しく、確定診断までに数年かかることも珍しくない。

 中でも、潰瘍性大腸炎(UC)や原発性硬化性胆管炎(PSC)といった自己免疫性疾患は、体の免疫システムが“自分自身”を攻撃してしまうことで慢性的な炎症を引き起こす。治療はステロイドや免疫抑制剤などで炎症を抑える対症療法が中心で、根本的な治療法がなかった。

暴れる抗体をピンポイントで除去。新しい治療が始まる?

 そんな中、京都大学発スタートアップのLink Therapeutics株式会社は、これらの難病に共通して現れる“ある抗体”に注目している。それが「抗インテグリンαvβ6抗体」と呼ばれる自己抗体だ。

 この抗体が暴走することで、腸や胆管の粘膜を傷つけ、慢性的な炎症を引き起こしている可能性があるという。

 Link Therapeuticsは、この抗体そのものをピンポイントで除去するという、従来とはまったく異なるアプローチを開発中だ。将来的には、「薬で抑える」ではなく「原因を取り除く」という、根本治療につながるかもしれない。

副作用を減らして、効き目は早く。そんな都合のいい話が現実に

 従来の治療では、免疫全体を弱めるため、感染症やがんのリスクが高まるといった副作用が問題だった。特にステロイドや免疫抑制剤といった薬は、炎症の原因を抑える一方で、免疫の働きそのものを広く沈静化させてしまう。

 例えるなら、敵が暴れている地域全体を制圧するために、強力な爆撃を仕掛けるようなものだ。確かに“敵”は一掃されるが、あたり一面が焼け野原になり、正常な組織や免疫機能まで損なわれてしまう可能性がある。

 それに対して、Link Therapeuticsの技術は、“本丸”である自己抗体だけをピンポイントで取り除く設計になっている。正常な免疫はそのまま温存され、副作用のリスクも抑えられると期待されている。

AIが嘘をつくように、抗体だって間違える

 ちなみに、人の体には100億種類以上の抗体があるといわれている。外敵を見分けて、必要なときにだけ反応するその仕組みは、体内に組み込まれた精巧なAIのようなものだ。

 けれど、GPTがしばしば“それっぽい嘘”をつくように、抗体も時に標的を間違える。自己免疫疾患の多くは、こうした“識別ミス”が原因だ。

 Link Therapeuticsは、そうした暴走した抗体だけを選び取って除去する技術を開発している。それは、体の中のアルゴリズムを修正し、病気の根本に挑む試みでもある。

 抗体は種類が多すぎて、すべてが解明されているわけではない。医学の研究が進めば、今はまだ“病気と気づかれていない病気”が、これから見つかるかもしれない。

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