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「初日300アクセス」から月間33億PVへ──魔法のiらんど爆発的成長の裏側

モバイル黎明期に女子中高生を虜にした"奇跡のサービス"はどう生まれたか──谷井玲氏インタビュー

2025年07月22日 09時00分更新

文● 遠藤 諭

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サービスを自分たちの目指すものとするために

―― この頃のユーザー層と、ビジネスモデルについて教えていただけますか?

谷井 はい。日記機能、小説機能、掲示板など、さまざまな機能を実装していきましたが。私たちは、こうしたサービスで表示される中身のデータベースを直接見ることができたんですね。1秒間に3000件、10秒で3万件ものトラフィックがあるんですが、ユーザーの声がリアルタイムで見えるんです。「こんな機能があったら」「あんな機能が欲しい」という声を見ながら、「よし、6時間後にこの機能を実装しよう」というような開発をしていましたね。

―― おー。

谷井 こうしたことに関連して1つ大きなできごとがありました。どんなお客さんが見てくれているのか分析したところ、男性のアダルトサイトが多く見られていたんですね。でも、私たちはそういう意図で魔法のiらんどを作ったわけではないので、アダルトサイトを一掃することにしました。

 そこで「アイポリス」という仕組みを作ったんです。アイポリスは、エロや死といった不適切な言葉を自動的に検知して、問題のあるサイトを特定します。全体の半分くらいがアダルト系のコンテンツになった時期もあったのですよ。

―― 半分というのはすごい数字ですね。

谷井 それで、奈良県警とも連携することになります。当時、警視庁はデジタル犯罪についてはまだ手探り状態だったからなんですが。魔法のiらんどで不審なホームページを見つけると、特殊なマークがついていて、それを押すと連絡される仕組みを作りました。たとえば、違法な内容が書かれているのを見つけたときですね。

 そういう場合、「アイポリス」というシステムが働いて、そのページは「刑務所の画面」に切り替わるんです。ほとんどのリンクが使えなくなって、「現在アイポリスに収監されているため、問題点を修正しない限りこのホームページは表示できません」というメッセージが表示されるんです。

―― その「アイポリス」というしくみはどんな形でやられたのですか?

谷井 実は、この監視組織は三重県の障がい者の方々なんですね。元マイクロソフトの社長の成毛さんと北川三重県知事が関わり、「障がい者の方々が税金に頼るのではなく、自分たちで働いてお金を稼ぐ」という素晴らしい取り組みを始めたんですね。

 その団体が24時間体制で魔法のiらんどのコンテンツをチェックしてくれました。中には体が不自由でキーボード操作が大変な方もいらっしゃいましたが、一生懸命サイトの健全化に取り組んでくれたんです。私たちはその会社に正当な対価をお支払いしました。

 その会社は今でも株式会社インテグラルという名前で角川さんに引き継がれているんですよ。彼らのおかげで魔法のiらんどは本当に健全なサイトになれたんですね。

―― それが結局、魔法のiらんどのあるべき姿、エコシステムになっていくということですかね?

谷井 アイポリスのおかげで、サイトの雰囲気が大きく変わりました。アダルトコンテンツを一掃したことで、ユーザーの80%が若い女性になっていくんですよ。

 しかし、逆に女性が多く集まるサイトには必ず怪しい男性も入ってくるんですね。私たちのサービスは無料で、しかも技術的にはかなり気合を入れて作ったものでした。それを悪用されるのは避けたいという気持ちもあります。

 そこで、危険なサイトについては、アイポリスがチェックする前に私のところに連絡が来て、警視庁や奈良県警と連携して対応していました。たとえば暴力団関係のサイトなども、警察と協力して削除することができました。このように徹底的に管理することで、女性が安心して使えるサービスを実現できたんですよ。健全な男性も入ってくるようになりましたね。

 アダルトグッズを販売するECサイトを作る人たちがいて、アイポリスに収監されると「我々は法律違反をしているわけではない」と抗議の電話がかかってきたりしましたが、約款をよく読んでいただくようお願いしていました。

 そうやってコンテンツを整理していくことで、ほとんどが女性ユーザーとなり、最大で600万人くらいのユーザー数、月間33億ページビューにつながったんです。我々のターゲットである10代から20代後半の日本の人口は2000万人で、その半分の1000万人が女性でした。その中からどれだけ獲得できるかを考えていましたね。

アクセス数などシステム側のデータが詳細に記録・分析されている。それぞれについて詳しく説明いただいた。

―― 1000万のうち600万というのはすごい数字ですね。

谷井 そうなんですよ。この分析資料を見ていただくと、サービスの詳しい状況がわかります。ユーザーの属性や、どんな人が魔法のiらんどを使っているのか、血液型や性格まで細かく分析していました。

 ユーザーの属性などの情報を少しずつ集められるような工夫をしていったんですね。「あなたはどんな人ですか?」といった質問に答えてもらったり、性格診断のようなものを用意したり。ユーザーが気にならないような形で、そうした属性が集まる仕組みを作っていました。

―― 平成13年(2001年)のデータを見ると、ホームページ数が86万5千、登録者数が56万人。年齢構成は10代が26%、20代が49%なんですね。思ったより年齢層が高いですね。

谷井 そうなんです。スタート間もない2001年頃は、まだ20代が半分くらいを占めていました。でも、その後どんどん若い層が増えていったんですね。

―― iモードのパケット代が高かったからかもしれませんね。私も11万円の請求が来たことがあります。

谷井 そうそう、「パケ死」という言葉があったくらいですね。

―― なるほど。最初は男性が65%で20代中心だったのが、最終的には女性が80%を占めるようになったと。典型的なテクノロジーの初期採用者から、よりライトなターゲット層へと移行していったという形ですね。

谷井 はい。サイトの構成も、徐々に女性向けにシフトしていきました。

―― 当時のiモード開始頃は、他にはどんなサービスが賑わっていたんですか?

谷井 iメニューという公式メニューがあって、金融機関のサイトやゲームサイトが人気でしたね。ドワンゴさんの釣りゲームなどがありました。

―― 「釣りバカ気分」だ。

谷井 iモードには公式サイトとオープンサイトがあったわけですが。魔法のiらんどは、オープンサイトとして運営していたのですね。公式サイトだとドコモさんが課金してくれるのですが、我々は無料のサイトでした。ただ、トラフィックは圧倒的に多かったですね。


成毛さん:成毛眞(なるけ まこと)氏。元マイクロソフト日本法人代表取締役社長。書評サイト「HONZ」代表。
パケ死:パケット通信料金が高額になり、請求書を見て驚くこと。特にiモード初期は料金が高く、10万円以上の請求も珍しくなかった。

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