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遠藤諭のプログラミング+日記 第186回

ChatGPTに書いてもらおうとしたがJavaScriptやPythonのようにはいかなかった

約40年前の世界初のPDAでインベーダー風(?)シューティングを作って動かす

2025年05月07日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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PSION Organizer II

大人になった今ならわかる「PSION」のOPL言語

 『MSX-BASICでゲームを作ろう 懐かしくて新しいMSXで大人になった今ならわかる』(山田直樹、米澤遼著、技術評論社)なる本が出ると、すがやみつるさんがポストされていた(5/27発売)。

 私はBASICでプログラムを書いた経験がほとんどないのだが、この本にはピクリと心が動いてしまった。「大人になった今ならわかる」というのもよい。Windowsで動作する「MSXPLAYer」というエミュレーターもあるらしいのだが、やはり本物のハードウェアで動かすのが楽しそうだ。

 そこで、机のまわりを見ると「PSION Organizer II」という1986年に英国で発売された携帯端末が転がっていた。世界最初の「PDA」ともされる製品(Wikipediaによる)。PDAとは、パーソナル・デジタル・アシスタントの略で、1993年に発売されたAppleの「Newton」で使われた言葉である。

 もっとも、このPSION Organizer IIを世界最初のPDAとするのは、日本人として少し気が引けるものがある。というのも、日本では1983年にカシオから「PF-3000」にはじまる電子手帳が登場し、また1985年にはシャープからポケコンの流れを汲むBASICの動く「PA-500」も発売されているからだ。

 PSION Organizerの初代機は、1984年の発売で日本の電子手帳とほぼ同時期の製品である。ところが、初代機はPDAではないとされている。電子手帳とPDAの境界線は、汎用的な情報処理やアプリの追加・実行が可能であるか、そのためのOSが提供されているかあたりになるのだろうか。

 しかし、そうしたことよりも、PSION Organizer IIは、他メーカーの電子手帳やPDA(携帯情報端末)とは、一線を画するところのある製品なのである。それは、

 PSIONだけの"美学"

によるものであると考えられる。これは、その後のPSIONの携帯端末において守り継がれていくことになったのではあるが。そして、その"美学"の根幹をなす概念の1つが、OPLという言語でプログラムが書けることだった。

 一般ユーザー向けの携帯端末であるにも関わらず、プログラミング機能がキッチリ入っている。「これを持つ人たちは、時代の先端を行く情報エリートともいうべき選ばれし人々である」というPSION社の高邁な思想が感じられるというものだ。

 「選ばれし人たちはプログラムくらいサラリと書いちゃうでしょ」というわけだ。「プログラミングができない人には売りたくない」とまでは言っていないものの、その姿勢は実に潔く、はなはだカッコいいと言わざるを得ない。

 ところで、PSION Organizer IIのデザイン、1960年代の英国製テレビ人形劇ドラマ『サンダーバード』のサンダーバード2号を思い起こさせはしないだろうか? ジェリー・アンダーソンが手がけた、子供を決して甘くみることのない作り込みのされたミニチュアたち。それと、PSION Organizer IIの液晶画面周りのデザインやフォント、アクセントの明るいライン。さらには、カバーを引き下げるとキーボードが現れる仕掛けは、誰もが愛してやまないサンダーバード2号を先祖に持つと思いたくなる。

サンダーバード2号のヘビーデューティながら母性的でもある機体はこんな感じである(少しヘンだが:by ChatGPT)。

サンダーバード2号の機体やコンテナにはいわゆるパネルラインがあるが、PSION Organizer IIのカバーはそれに似たデザイン処理がされている。

本体裏には2つのデータパックが入る。これですよ、これ。1980年代の日本は何でも“薄型”がよいとされたが、このゴロンとした将棋の駒のような掴みごこちもよい。

本体上部にも拡張コネクタがあり、外部機器にガッチャンと合体したり込み込めたらしい。業務用でも使われた理由はこのあたりにもあるのだろう。

 PSION Organizer IIのあと、PSIONは、「PSION Series 3」(1991年)、「PSION Siena」(1996年)、「PSION Series 5」(1997年)と後継機といえる端末を発売していった(私はその都度付き合ったのだが)。

 いずれも洗練されたデザインで、特に「PSION Series 5」のキーボードを開くと本体が変形するギミックは話題となった。また、小型ながらフルキーボードの打鍵感を実現するなど、その匠の技には目を見張るものがあった。いま振り返っても、その調和のとれた完成度は「PSION」だけの世界と言わざるを得ない。

 「Apple Newton」は良い意味でミーハーな製品だし、「Palm Pilot」はこれも良い意味でピタゴラス教団のように禁欲的な製品だ。「HP 95LX」に至っては、まるでコンピューターを小さくしただけのような印象を受ける。「OASYS Pocket 3」や「NEC Mobile Gear」は、育ちすぎたキュウリのような印象で、私は「ワラジ型端末」と呼んでいた。これらの製品とは一線を画する格調の高さ、気品、そしてスマートさと呼べるものがあった。

 このようなことを考えながら、PSION Organizer IIを手に取って眺めていたのだが、9V乾電池を入れてみると、約40年前の端末は見事に目を覚ましたのである。

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