パナソニック ホールディングスが2024年11月7日~12月8日の期間、新宿御苑(東京都新宿区)で、遠隔操作型ロボットを用いた移動型無人販売サービス「PIMTO(ピムト)」を用いた実証実験を行うと発表した。
この実証実験では、PIMTOを用いて無人での物品販売を行う。また、遠隔操縦によるロボットの移動業務、商品の梱包作業などで福祉施設と連携し、福祉的就労の支援も目指す。実験を通じて顧客価値や原価試算、運用の実現性などを検証し、2025年度以降に本格的なサービス開始を目指す。
パナソニック ホールディングス モビリティ事業戦略室プロジェクトリーダーの改發壮氏は、「これはモノづくりではなくコトづくりのプロジェクト。ロボット(活用)の視点からではなく、物品販売や物品購入による『市場』とロボットの『開発/製造』をつなぎ、早期の市場醸成を目指すものだ。福祉的就労の枠組みを採用しており、その点に対しても共感を得ている」と説明した。
モビリティの活用で「移動量とくらしの豊かさの最適化」を図る
PIMTOを開発するモビリティ事業戦略室は、パナソニックグループCEO直轄の組織であり、モビリティの変化を捉えた新規事業創出を目指している。モビリティという観点から、家の中だけでなく生活圏までをとらえた事業創出に取り組んでおり、すでに2つのプロジェクトを子会社化している。
「“人々のくらし”を起点に移動のあり方を見直すことで、人やコミュニティ、地球を元気にすることをパーパスとして、取り組みを推進している」(改發氏)
そうした取り組みのひとつとして、モビリティ事業戦略室では“人やモノの移動量を最適化”する「MOPTIMO(モプティモ)」プロジェクトを推進している。
このMOPTIMOプロジェクトでは「移動量とくらしの豊かさ」を探究している。移動量が少なければ経済が停滞するが、移動量が増えれば「満員電車」「行列」「交通事故」といった不快さやリスクも生まれる。このように、移動量のくらしの豊かさは単純に正比例するわけではない点に着目して、「適切な移動量に最適化する」ことを目指す。
今回のPIMTOもその一環だ。
「地方自治体や都市関連企業、観光関連事業者などと会話した結果、『購入移動の最適化』の重要性に行き着いた。また(単純に移動販売をすればいいわけではなく)購入移動のニーズは、季節や時期によって場所が変化することも分かっている。パナソニックグループには、移動型ロボットや販売機器の実績があり、それらの知見を生かして、遠隔操縦で動かせる無人販売ロボットのサービス化を目指した」(改發氏)
たとえば、地方では公共交通機関が維持しづらくなっており、高齢者の買い物が不自由になっている。一方で、観光地では供給を上回るほどの購買需要があるが、販売する店舗や自動販売機を増やせば景観などの観光資源を破壊してしまうおそれもある。
改發氏は「移動可能で安価な無人販売ロボットが、こうした課題の解決につながる」と説明する。移動型の無人販売ロボットであれば、店舗の設置工事は不要であるほか、季節や天候、イベントといった需要変化にも柔軟に対応することができる。
「福祉的就労の支援」もテーマ、遠隔操縦や商品梱包などを委託
今回の実証実験で注目されるのは、福祉的就労の支援を視野に入れて「働く視点からのユニバーサルデザイン」に貢献することも目指している点だ。心身に障害を抱える人たちが運営業務に参加しやすい環境づくりを目指しており、ロボットの遠隔操縦業務や商品の梱包作業を福祉施設に委託するという。
具体的には、熊本県のアス・トライ就労移行支援事業所との連携により、アプリを使って福祉施設から遠隔操縦による移動業務を行う。商品の補充は現場の担当者が行い、遠隔操縦者との連携によって運用する仕組みだ。
また販売する商品「御苑のOYATSU×OMAKE」についても、福祉的就労支援が意図されている。北海道の「まるやまめろんぱん」が作るメロンパンに、東日本大震災の復興支援で設立された南三陸の工場が生産するFSC認証材製の“おまけの木工コースター”を組み合わせた商品で、袋詰めは東京都江東区の福祉就労支援施設、箱詰めと販売運用のサポートは新宿区の障害者福祉支援施設の協力を得る。価格は1000円~1300円を想定している。
移動型無人販売ロボットは、ピクセルインテリジェンス(TISインテックグループ)が開発した車体に、パナソニックホールディングスが開発した自動販売用ロボットを搭載している。移動速度は時速4km未満で、最大連続走行距離は5km程度(新宿御苑内では500m程度の移動を想定)。最大10種類の商品を販売可能で、支払方法はキャッシュレス、5言語でアナウンスができる。「購入時の操作は、ゲーム専用機のように十字キーでの操作とし、遊び心を取り入れている」という。
ルートマップの表示や遠隔操縦を行う「PIMTO UI」アプリには、商品の補充管理機能や移動依頼発信機能を備える。また利用データや販売データなどを解析することで、販売戦略の立案や商品開発支援にもつなげる。PIMTOの導入/運用費用は「1人で(有人で)移動販売を行う場合の人件費、維持費と同等程度にしたい」と話した。
近年、新宿御苑は訪日外国人の来園が増えており、今年度は過去最多の300万人が来園すると見込まれている。実証実験は11月7日~12月8日の期間(毎週木曜日~日曜日、9時~16時)行われ、期間中には「菊花壇展」(11月1日~15日)や「洋らん展」(11月19日~24日)といった人気イベントも開催される。パナソニックでは、新宿御苑の魅力が伝わる商品の購入機会を増やす可能性を模索すると同時に、来園者が増えるタイミングに合わせて販売機会の拡大を目指したいとしている。