電帳法対応にデータガバナンスアドオン、契約の電子化にDropbox Signを採用

建設業の「仕事のやり方変革」にDropboxをフル活用する飛島建設

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: Dropbox

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飛島建設 経営本部 イノベーション推進部 システムグループ 部長の小澤敦氏

 「われわれもお取引先様も仕事が楽になった。『これこそがトランスフォーメーションだよ!』とみんなに言っています」

 青函トンネルや東京湾アクアラインなど、大型の土木/建築プロジェクトで存在感を発揮する総合建設会社の飛島建設。同社では2020年にDropboxを導入し、全国の現場を含む社内全体、および外部協力会社のファイル共有基盤として活用してきた。

 2023年には、電子帳簿保存法(電帳法)改正への対応策としてDropboxの「データガバナンスアドオン」を追加。さらに電子署名サービス「Dropbox Sign」の活用も開始して、「仕事のやり方」の変革(トランスフォーメーション)をコスト効率良く推進している。

 今回は、Dropboxの導入と、データガバナンスアドオンやDropbox Signの追加導入による「仕事のやり方の変革」を中心テーマとして、飛島建設 経営本部 イノベーション推進部 システムグループ 部長の小澤敦氏に話を聞いた。

Dropboxの全社導入で「組織のフラット化」も実現可能に

 1883年(明治16年)創業、2023年に創業140周年を迎えた飛島建設は、道路/鉄道トンネル工事、ダム工事といった、国内の大規模な土木/建築プロジェクトに数多く参画してきた総合建設会社だ。

飛島建設のWebサイト。現在は、企業と社会のサステナビリティ向上を目指す「トビシマSX」にも取り組んでいる

 同社では、2020年まで数年をかけてDropboxの全社導入を行った。小澤氏は「その目的は『仕事のやり方』を転換することでした」と語る。

 それまでは現場事務所のNASやオフィスのファイルサーバーを使ってファイルの保管や共有を行っていたが、「働き方改革」を行って建設業界の課題である長時間労働を是正するためには、どこにいても業務資料にアクセスができるクラウドストレージへの移行が必要だった。

 Dropboxの導入により、場所を問わず必要な資料にアクセスできるようになっただけでなく、「資料が現場ごとに分散/サイロ化せず、全社で共有できる」「現場で使っているタブレット端末でも図面を参照可能」「JV(ジョイントベンチャー)の協力会社とも安全に資料が共有できる」など数多くのメリットが生まれ、業務負荷の軽減につながった。

こうした経緯はDropboxの導入事例サイトで詳しく紹介されている

 小澤氏は、導入前には想定していなかったメリットも生まれたと語る。全社的なファイル共有基盤を構築したことで、「組織のフラット化」も実現できたのだという。

 かつての飛島建設は、本社(東京)の配下に全国各エリアの支店があり、各支店の配下で多くの現場が動くという、複数のレイヤー(階層)を持つツリー型の組織構造だった。現場の技術サポートやマネジメントを行うために、専門エンジニアや各分野の監督者が各エリアの支店に分散配置されていた。また、現場から日々上がってくる情報は、いったん支店で取りまとめてから本社に報告するかたちがとられていた。

 しかし、2011年に東日本大震災が発生し、その復旧/復興のため工事案件が東北エリアに大きく偏る事態となった。この経験を通じて、飛島建設では「リソースを各支店に分散させるのではなく、本社に集約して、本社直轄で全国の現場をマネジメント、サポートする体制が望ましいのではないか。そういう仮説が生まれました」(小澤氏)。

 この仮説を「確信」に変えたのが、2020年以降のコロナ禍におけるリモートワーク体験だったという。オンライン会議を含めた「場所に関係なく仕事ができる」環境が整ったことで、本社から全国の現場をフラットにマネジメント、サポートする、望ましい組織体制が実現できるという結論に至った。

 「そうした体制を実現するためには当然、全社的なデータの集約と共有も必要になります。ただし、われわれはすでにDropboxを導入していました。そのため、現場から直接上がってくるデータを見て、本社から直接マネジメントすることが実現可能だったのです」

 実際に、飛島建設では2023年に組織構造の変更を行い、現在では全国の現場に対して本社から直接マネジメントを行う「フラット型組織」となっている。

電帳法対応は「データガバナンスアドオン」追加で効率良く実現

 それ以後も、Dropboxは同社にさまざまなメリットをもたらしている。たとえば2022年に施行された改正電帳法への対応にあたっては、Dropboxにデータガバナンスアドオンを追加することで対応が簡単に済んだという。

 「電帳法対応のために、新たなシステムを開発したり、新しいサービス(SaaS)を導入したりすることも検討したのですが、『そこまで手間ひまをかけなくても……』というのが経理部の意見でした」

 当時、同社では基幹システムの再構築も進めていた。この基幹システムとDropboxをAPI連携させて、システムに登録される文書ファイルの保存先を、データガバナンスアドオンを追加したDropboxにすれば、電帳法の「真実性(保存文書が改竄されていないことの証明)」要件がシンプルに満たせる。

 Dropboxのデータガバナンスアドオンは、法定文書の長期保存要件を満たすためのオプション製品だ。特定のフォルダに長期保存ポリシーを設定することで、そこに保存した文書ファイルのバージョン履歴が最長10年間保持されるようになる。さらに、ポリシーで設定した一定の期間中は、ファイルの削除もできなくなる。これにより、電帳法が求める保存要件のひとつ「真実性」が満たせるわけだ。

 ただし、電帳法では「真実性」に加えて「可視性(必要なときに検索して参照できること)」も要件としている。上述した基幹システム経由で文書を登録する場合は検索が可能だが、基幹システムから登録しない文書もある。直接Dropboxに保存してしまうと、可視性の要件が担保できなくなってしまう。

 そこで同社では、ごく簡単な「文書登録アプリ」を開発し、基幹システムで扱わない文書はこのアプリ経由でDropboxにアップロードすることにした。アップロード時には、書類種別や案件名、取引の金額、日付、取引先といった情報を入力する。これらのメタデータがDropbox上のファイルとひも付いたかたちで記録され、検索が可能になる仕組みだ。

電帳法の「可視性(検索性)」要件を満たすために、簡単な文書登録アプリを作成した

コストは他社比で4分の1、契約の電子化には「Dropbox Sign」を採用

 電子署名サービスのDropbox Signも、基幹システムの再構築を進めていく中で導入が決まった。基幹システム再構築の目的のひとつである「発注先企業との契約の電子化」に対応するためのものだ。

 「社内の発注稟議と決裁については、かなり前から承認ワークフローシステムを使って電子化していました。ただし、決裁が下りたあとの、お取引先様との『注文書』や『注文請書』のやり取りは紙ベースでした。新しいシステムではこれをPDFファイルとして作成し、Dropbox SignのAPIを使って署名依頼メールを自動送信します。発注先のお取引先様が内容を確認して、PC上で署名すれば契約は完了で、こちらには通知メールが届きます」

 実は当初、電子署名サービスには他社のものを利用する計画であり、PoCの段階ではそのサービスを使っていた。しかし、実際の利用コストを試算してみると、Dropbox Signに切り替えることで大幅なコストダウンになることがわかった。APIの実装もシンプルであり、開発にも大きな手間はかからない。

 小澤氏によると、飛島建設では年間におよそ1万3000件の発注契約が発生するという。その契約文書を処理するために、他社の電子署名サービスではおよそ800万円かかるが、課金体系の異なるDropbox Sign(API)ならば200万円と、4分の1のコストで済む。非常に大きなコストダウンだ。

 もっとも、Dropbox Signを採用するうえではひとつ大きな条件があった。Dropbox Signの電子署名による契約が、法律上有効なものであるという公的な保証を得ることだ。特に飛島建設の場合は、民法だけでなく建設業法でも、Dropbox Signを使った契約が適法であることが確認できなければならない。

 「当社の顧問弁護士は『Dropbox Signで問題ない』という見解だったのですが、われわれとしてはやはり行政の“お墨付き”が欲しい。そこでDropboxさんに、『グレーゾーン解消制度』を使ってきちんと認定をもらってくださいとお願いしました」

 ちょうどその当時、Dropboxでも日本市場における信頼度向上のために、適法性の確認申請を検討していた。そこでまず2023年2月には、Dropbox Signが電子署名法に適合するサービスであることの確認を申請し、9月に適法であるとの回答を得た。続いて、同じく9月に建設業法の下請契約におけるDropbox Signの適法性の確認申請を行い、2024年1月に適法との回答を得た。国の審査には長い時間がかかったものの、これで電子契約にDropbox Signを使うことの適法性が保証された。

 こうした動きを経て、飛島建設では2024年2月から、新たに構築した電子契約システムの本番運用を開始している。約2600社の取引先に対して電子契約への移行同意を求め、すでに大半の取引先が対応を行っており、直近の電子契約率は96%に達しているという。

 「契約の電子化について、ネガティブな反応はなかったです。これまでのような書面でのやり取りだと、お取引先様が注文請書を発行する際に、1枚あたり200円の印紙代が必要でした。電子契約になればその印紙代も、さらには郵送料もかかりませんから」

 もちろん飛島建設の側でも、電子契約に移行することで、注文書の印刷や押印、郵送、受領した注文請書のファイリングといった手間やコストがなくなる。小澤氏は「われわれの側もお取引先様も仕事が楽になった。わたしは『これこそがトランスフォーメーションだよ!』とみんなに言っています」と笑う。

* * *

 Dropboxを導入して「仕事のやり方」を変革し、法制度の変化への対応もオプションの追加で効率良く実現してきた飛島建設。いわばDropboxを“フル活用”している同社が、これからのDropboxに期待する進化とはどんなことだろうか。

 そう質問したところ、小澤氏は「AIによる検索機能の強化」だと答えた。過去の工事案件から類似するものをAIが探し出してくれるようになれば、技術の伝承にも役立つのではないかと話す。

 「これまでは本社や各支店に、何でも知っている“主(ぬし)”のような人がいました。『この工事と似た条件の工事は過去にあったか』とか『こういう工事ではどんな工法を使ってきたか』とか聞けば、その人がパッと答えてくれた。でも、そういう属人的なノウハウの伝承は、これから人が(労働人口が)減ってくると破綻します。そもそも人間の記憶も完全ではないので、その人すら忘れている“宝の山”が眠っているかもしれない。そのあたりを支援してくれるようなAIの機能を、日本でも早くリリースしてほしいですね」

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